槍の又左

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槍の又左

美怜がポシェットから飴玉の様な粒を数粒出すと「飲んで」と男に手渡した。グッと飲み込む男。 「凄え、腹空いてたのが消えた」 「その粒、プチディナって言うんだけど、栄養もあってお腹の中で物凄く膨らむからね」 「へ~」 男と一緒に翔也も思わず声が出た。「何でお前も驚くんだ?」と不思議そうな顔で男が翔也を見る。 「有り難うな。お前達、道に迷ったって言ってたけど何処に行きたいんだ?お礼にその場所まで案内してやるぞ」 満腹になったお腹をポンポン叩きながら男が言った。 「あ、いや。道に迷ったと言うか、この時代に迷い込んだと言うか......」 「あの~、僕達は旅芸人なので、何処か泊まれる場所を探してまして」 どの時代に迷い込んだのか解らないが、タイムマシンがすぐに動かせないなら、夜になる前に泊まれる場所を確保しておく必要がある。 「何だ、それなら俺の家で良ければ泊めてやるよ」 「ホントですか!?」 「ああ、その代わりこれから一仕事あるから俺に付いて来な」 「解りました」 男はクルッと背中を向けると「付いて来い」とゼスチャーした。 男のすぐ後を追いながら二人は山道を歩いて行く。 「そう言えばまだお前達の名前を聞いていなかったな」 「そうですね。僕は芹沢翔也、彼女は藤村美怜です」 「二人共何だか舌を噛みそうな変な名前だな。俺は前田利家だ」 「ええっ!」 「何だ何だ、そんな驚く名前か?」 不思議そうな顔をする男。 「おい、僕達がいる時代が解ったぞ。戦国時代だ」 翔也が美怜に耳打ちする。 「何で解るのよ」 「何でって、前田利家と言えば戦国時代の武将だろ。加賀百万石を築いた有名人じゃんか」 「へーそうなの?アタシよく知らないけど」 「おいおい、未来の学校はちゃんと歴史を教えないのかよ」 「学校って.......何?」 キョトンとする美怜。絶句する翔也。 ちなみに2058年の世界では、一部の地域を除いて学校に通う文化が無い。子供達は学びたいジャンルがあればダウンロードして、脳の記憶を司る場所(=海馬)に直接保存するのだ。 だから歴史に興味が無い美怜は良く知らないが、ダウンロードすれば明日には2020年代の大学教授よりも歴史に詳しくなれる。 ただし、学校は共同生活を学ぶ場所だと考える人達は学校システムの復活を訴えていて、義務教育制度の廃止後も子供達が学校に通う地域もある。 「利家さん、一仕事するって言ってましたけど何をやるんですか?」 「何か運ぶとかだったら僕達も手伝いますよ」 「ハハハハ、一仕事ってそうじゃねーんだ。俺は織田信長って人に仕えていたんだが、問題起こしてクビになっちまって。今は浪人の身なんだよ」 「はあ」 二人が出会った時の前田利家は「槍の又左」の異名を持つ乱暴者で、信長が寵愛していた茶坊主を斬り殺して家臣団から追放されていた。 「そんで、今日これから大きな戦いがある」 「はあ」 「だからその戦いで手柄を立てて、また信長様の家臣に戻らせて貰うんだ」 「はあ.......って、ええっ!」 「一仕事って戦うんですか!?」 「そうだ。お前達も一緒に戦え」 「ええーー!!」 「ムリムリムリムリ」
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