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ベイビー首相
首相官邸2階の応接室に移動した二人。
「首相をお連れしますので、ちょっと待ってて下さいね」
そう言うと部屋を出て行ったダシャ会長。後に残された美怜は暫く大人しく座っていたのだが、キョロキョロと辺りを見渡すうちに、飾ってある桜の盆栽が気になって仕方が無くなった。
「あの桜どうなってんの?」
40センチ程の大きさの桜の盆栽が透明ケースに入れられているのだが、ゆっくりと蕾が大きくなって桜が満開となり、散った後はまた暫くすると蕾が出て来て、それを延々と繰り返すのだ。
ジッと我慢していたのだが、好奇心には勝てず盆栽ケースに近付く美怜。
「これってリアルだけど、まさか本物の桜じゃないよね?」
ケースの下の方にタイマーみたいなつまみが付いていて、ついつい触ってしまう。その時に勢い良くドアが開き、驚いた美怜は思わずタイマーをグイッとMAXにしてしまった。次の瞬間、桜の盆栽が消え去った。
「うわ!」
テンパる美怜。盆栽が消え去った事に気付いたダシャ会長は驚く様子も無く、盆栽ケースの前に来るとタイマーを「0」にした。
「よくゲストの方がMAXにしてしまうんですよね~」
「す、す、すみません」
「いえいえ、気にする必要は無いですよ。明日になればまた元の場所に戻るでしょう」
「さっきの桜は本物ですか?」
「はい本物の桜です。あのケースの中は重力調整で時間の流れが違ってましてね。1年間が20分に短くなっています。タイマーをMAXにすると時空間の歪みでよく消えてしまうんですよ」
「盆栽はどこに消えたんですか?」
「さあ。5000kmくらい先じゃないですかね。タイマーを戻したので、いずれ元の位置に戻って来ますよ」
「はあ......」
仕組みはよく解らないが、とにかくこの盆栽が超高級品なのは想像出来た。
「さあ、ソファーに戻って」
ダシャ会長に言われて美怜は急いでソファーに戻った。
「あれ?そう言えば首相を呼びに行かれたんですよね」
ダシャ会長は脇に抱えていた箱を大切そうにテーブルに置くと、静かに蓋を開けた。
「お連れしましたよ。今はスリープモードで寝てますけどね」
「えっ、これが首相?.....赤ちゃんじゃないですか!?」
スヤスヤと箱の中で寝ているのは、可愛い赤ちゃんだった。ギュッと握りしめた小さな拳が超ラブリーだ。
「この子はシオン。正確にはパピルスの外部端末です。本体はこの首相官邸の地下コンピューター室内に居ますが、パピルスの要望で我々が造った赤ちゃんロボットです」
ダシャ会長の説明に仰天する美怜。綺麗な肌もツヤツヤの髪も柔らかそうな唇も、どう見ても人間の赤ちゃんにしか見えない。
「あの、抱っこしてみても良いですか?」
「どうぞどうぞ。スリープモードは箱から出て10分経つと自動解除されますが、それまでの間は目を覚ましませんから」
箱からソッと出して抱っこしてみる。肌の質感もまるで本物の赤ちゃんだ。
思わず背中をポンポンと軽く叩いて抱き締めた。
「凄いリアルですね」
「そりゃあ最先端技術の塊みたいなロボットですからね。ただ......」
「ただ?」
「いや、何でもありません」
言葉を濁したダシャ会長。不思議に思った美怜だったが、「まあ良いか」とそれ以上聞くのを止めた。
「先程藤村さんのエアフに契約書をメールしましたから、サインして頂けますか」
「あ、はい」
赤ちゃんを大切に箱に戻してから、美怜は腕のエアフを操作して、契約書にサインをした。
「はい、サインしました」
「有り難う御座います。それでは早速タイムマシンのある場所にご案内しましょう」
そう言うと、ダシャ会長は深々と頭を下げたのだった。
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