常務秘書、野々村の決意

　野々村の声に上司がこちらを向いた。同性の自分ですらハッとさせられる整った顔立ち。スラリと背も高く、まるで有名コレクションのモデルのよう。緩んだネクタイ、ワイシャツの袖をまくりあげ、だいぶラフな様子だが、それすらも絵になる。時々、普通（…ではないのだが）の会社員にしておくにはもったいなさすぎる……と思う時がある。

「野々村くん、明後日の夕方からの予定全部キャンセルしてくれる？」
「……明後日の夕方、ですか」
　野々村、急ぎ上司のスケジュールを思い出す。
「明後日、４日午後は13時30分から役員による経営戦略会議、15時からは来日されるサイバーモノリス社CEOレディントン様と社内にて打合せ、18時から幕張メッセでアップルの新製品の発表イベントにご出席いただいた後、そのままレセプションにもご出席いただく、という予定でしたが……」
「それは知ってるよ」
　つまらなそうに答える上司。
「15時からの予定、全部キャンセルして」