あなたがいればそれでいい

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 受け持っているクラスの生徒に、どうしても存在を忘れてしまう生徒がいる。 「――先生、××さん飛ばしてます」  生徒にそう指摘され、改めて出席簿を見たら、確かにひとり飛ばしていた。備考欄にも、わざわざ「見落としがち」と赤字で書いているにも拘わらず、だ。本人に謝罪しつつ名前を呼べば「はい」と返事も返って来る。視線の先には生徒の姿もある。  最初は自分の物忘れがひどくなったのか、或いは目が悪くなって出席簿の細かい名前の羅列が読めなくなったのか、そんなことを考えた。  だが、一ヶ月も経てば、そうではないことはすぐにわかる。  彼女以外では起こらないのだ。名前を呼び忘れることなど。 「――どう思います?」  放課後、陰陽科の先生を引き留めて事情を相談した。普通科の先生でないのには、理由もある。  どうやら彼女は、教師である自分だけでなく、クラスメイトからもあまり認知されていないように見えるのだ。意図的なものではなく、無意識的なもの。それもやはり、単純に「影が薄い」で済ませられる程度ではなく。これは、魔法や呪術のひとつとして習う「人払い」の効果に近い。だが、「人払い」はその特異性から習得の非常に難しい技術であり、国家試験のひとつに並べられるほどのものだ。  問うた相手は少し考えた素振りを見せ、それから顔を上げた。 「実は、陰陽科(うち)にもいるんです」 「え?」 「まるで『人払い』でもしているかのように、周囲の認知があやふやになってきた子がひとり」
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