あなたがいればそれでいい

5/8
前へ
/8ページ
次へ
 問われた相手はといえば、そんな言葉は想定外だったようだ。 「え、別にそんなことはないけど」 「そう? なんか、クラスの友達とごはん食べる約束とかしてない? 大丈夫?」 「え、どうしたの急に」  顔いっぱいに困惑が広がっていく。それを誤魔化すかのように彼女は笑った。 「どうしたの、クラスでいじめられた?」 「そういうのはないよ、みんないい人」  仲が良い、とは敢えて言わなかった。ここ最近の、自分の存在が浮いている感じを自覚しているから。  それに彼女は「ふーん」と納得したようなしていないような、そんな曖昧な反応を見せる。だから「本当に」と加えるように言った。 「本当に、私は問題ないんだけどさ。ほら、科も違うのにずーっとふたりでしかお昼食べてないから」 「私も別に構わないんだけど……」  別に魔法科と陰陽科で仲が悪いとか、そういう話はない。クラスメイトでも、普通科の方でお昼を取る子だっている。私たちの関係だけが特別なわけじゃない。 「……ほら、早く食べないとまた時間ギリギリになるよ」 「ぅえ!? ほんとだ!」  おしゃべりに夢中になりすぎて時間を忘れるのはいつものこと。  言われて初めて時計を確認した私は、慌ててお弁当を掻き込む。それを横で眺める彼女が笑う。  ――別に今さら遅刻したところで、誰も気にしないと思うけど。  そう内心で思ったことは、秘密にしておいた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加