あなたがいればそれでいい

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「××、少し話いいか?」  珍しく教師の側から呼び止められたことに、驚きつつも足を止めた。  ここではなんだから、と空き教室に呼ばれて、適当に座るよう促される。時折きょろきょろと周囲を見渡すのは、人に見られたくないからなのか、それともこちらを見落とさないようにしているのか。  やがてこちらを向いた教師は、おもむろに口を開いた。 「お前、陰陽科に友達いるよな?」 「いますけど」  それがどうしたというのだろう。交友関係にまで口出しをされる謂れはないはずだけれど。 「……最近、クラスメイト……や俺から無視されているという自覚はあるか?」  少し間はあったものの、教師自身にも自覚はあるようだ。悪い人ではないのだろう。 「ありますけど」  だが、それで困っているわけではない。その原因が彼女にあるというのだろうか。だとすれば、私は、クラスではなく彼女を取る。  教師は黙った。  どう続けるか悩んでいるようにも見えた。 「……お前、さ」  教師はこちらから目を逸らす。目を見て話さないということは、良いことではないのだろう。  ――自分が、「人払い」を受けているという自覚は、あるか?
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