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「まあ、でも、私には××がいるし」
「えー。でも科が違うから、将来は離れ離れになるかもよ?」
「ならないならない。ずーっと一緒」
彼女は冗談のようにそんなことを言うけれど、そんなことを言っていると本当にずっと一緒になってしまうよ、と心の中で笑う。
無意識下で「人払い」を成功させるのに必要な条件は、ひとつは才能。そしてもうひとつは――対象物への執着、独占欲。ほかの何ものにも渡さないというその気持ちが、無意識下において他者からの視線を拒絶する。
――それってつまり、この子はずっと私を独占しようとしてたってことでしょ?
中学時代。気付けば周りから無視されるようになって、彼女だけが声を掛けてきてくれた。それ以来、ずっと一緒。
彼女がいつから私に「人払い」をかけていたのかはわからないけれど、私が彼女を知る前からだというなら、それは――今となっては、とても嬉しいし、恨めしい。
うまいこと説得して制御できるようにさせる、と教師は言っていたけれど。
「あー、もうこんな時間! ××と話してると本当に時間があっという間に過ぎちゃう」
慌てる彼女を「ねえ」と引き留める。
「ん?」
「今日、このままサボっちゃわない?」
「ええ!?」
思いもよらない言葉だったのか、彼女が目を丸くした。
「え、でも……」
「どうせ誰も気づかないよ」
私は貴方が。
貴方は私が。
独占しているのだから。
「うーん、私は誰も気にしないと思うからいいけど」
「私も誰も気にしないと思うよ」
「ええ……? やっぱクラスで浮いちゃってるとか……?」
心配そうにこちらを見る彼女。自分が原因だなどと、本当に思っていないのだ。本当に、無自覚なのだと、ここにきて理解する。
「誰か気にしても、サボりましたー、でいいんじゃないかな」
「怒られるって」
彼女の手を取る。困ったような顔をしながら、それでも彼女は手を握り返してくれた。
「――よし、どこに遊びに行こう?」
「さすがに制服だからなあ……」
「敢えて駅前に行くとか?」
「なんでそんな人目につくところ!?」
彼女の手を引く。向かう先は、校門。荷物は教室に置いたままだが、後で取りに戻ればいいだろう。
食べ終わった弁当箱すら置きっぱなしにして、私たち学校を抜け出した。
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