告発状

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 顔を上げると、一人眼前に佇む少女と目があった。少女は潔白な肌を張った顔面に丸く大きな黒眼を称え、一人相好を崩している。そして彼女の表情に呼応するかのように清流のごとく顔面横を流れる黒髪は重力さえにも抗い、上機嫌に宙を漂っていた。  だがその悠々としたあり様は、到底三次元の世界では許されたものではない。一切の物理法則を脱した彼女の立ち居振舞は、眼前に広がる液晶画面の中、電気信号としての存在意義が彼女を包容し唯一存在たらしめているのに基づく非理論的なものである。  暗い空間の中、液晶が発する機械光を背後にした神々しい彼女と向かい合う。少女は同性の多くが渇望するであろう身体情報の全てを体現している。だが彼女と相対する自分の容姿は、決して褒めたものではなかった。腹を損ねた子供を彷彿とさせる半開きの(まなこ)、腫れ物のごとく膨れ上がった頬など、元来それらを持って生み落とされた自分自身でさえ見ていて気分が良いものではない。  秀麗な少女と目が合う度に、その動かない唇の端が不敵に吊り上がる錯覚に襲われる。自身の醜悪さを皮肉られている気分になる。それで架空の脳内敵を強く睨みつけたまま、胸中に突沸する憎悪を心外に追いやるようにしてマウスを掴む。瞬間、液晶画面中央に音もなく浮かび上がった白い指先を操ると、四方形のアイコンを押した。
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