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ガラガラガラガラ。
「雪だー!」
穏やかな空気をぶち壊すように、容赦なくドアを開ける音とけたたましい声が鼓膜を突いた。
「ちょっ、静かにして! 父さん」
「健児さん、大きな声出さないで。看護師さん来ちゃうから」
いきなりお見舞いに来た父に、俺と母が一斉に注意する。
「そうかそうか、すまんな。久々の雪だから嬉しくてね」
「だとしても……」
「今日で入院は終わるのか!?」
父が俺の言葉を遮るように言う。
「まだ終わんないよ」
「健児さんが応援してくれたら終わるかも」
「そうか! 頑張れ! フレー! フレー!」
「だからうるさいって!」
今父が大きな声を出したのは、母のせいでもある。こういうところが昔は苦手だったが、今ではその仲の良さを羨ましく思う。
自分はもう三十歳を過ぎているのに、結婚相手どころか、今は付き合っている人すらいない。今まで仕事のことばかり考えてきたが、最近になって、親と話すことで家族を持つ幸せとその大切さがわかった。
それと同時に、母がいなくなった時のことも考えてしまう。その時に、父はどう思うのだろうか。俺ですら、きっととても辛い気持ちになるのに、俺よりよっぽど長く母とともに生きてきた父は……。
「おい、雪がやんだぞ! 積もってるから雪合戦しよう!」
「え、ちょっ……」
止める間もなく出て行った父に呆然とする。
しばらくすると、窓の外に父の姿が現れた。しゃがんで、楽しそうに雪を触っている。俺は、そんな父を見て思った。
どんなに辛いことがあっても、父ならきっと大丈夫だ、と。
根拠はないが、父にはそう感じさせる何かがあった。
母も同じことを考えていたのだろう。俺と母は目を合わせ、微笑み合った。
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