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「龍ちゃん、雪遊びしたいの?」
俺は昔の思い出にふけっていたが、母の声でふと我に返った。
「いや、したくないけど。なんで?」
「そういう顔をしてたから」
「してないよ。雪遊びしたいのは母さんでしょ?」
俺が冗談まじりにそう言うと、母はまた不機嫌そうな顔になった。
「私が雪遊びしたいなんて思ったことはないわ」
「それは嘘だ。昔は楽しそうに雪遊びしてたじゃん」
「それは、健児さんに合わせてただけ」
健児とは、俺の父のことだ。合わせてたら合わせてたで、母は父と遊んでいる時、心から楽しんでいなかったのだと考えると少し悲しい気持ちになった。
それを伝えると、母はううんと首を横に振る。
「違うよ。雪遊びは別に好きじゃないけれど、健児さんと遊ぶのは大好きなの。私は健児さんと遊ぶのを、心から楽しんでいたわ」
「そっか。それならよかった」
たしかに、母が遊ぶのは父とだけで、普段はいたって真面目な人だった。そのことを裏付けするかのように、俺の頭の中から、中学時代のある雪の思い出が引っ張り出された。思い出と言ってもそんな大したものではない。
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