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「今日はせっかく雪なのに、仕事かよー!」
お父さんがうな垂れた様子で言う。俺は、雪が降っていて登校するのが面倒くさいから学校に行きたくなかったのだが、お父さんはどうやら俺とは違う理由で仕事に行きたくないらしい。
「まぁまぁ、雪が降るのは今日だけじゃないから大丈夫だわ。また今度、雪遊びをするために今日は頑張って仕事をしてらっしゃい」
「たしかにね。じゃあ、いってきまーす!」
「いってらっしゃい」
まるで親子のような、もっと言えばおばあちゃんと孫のようなやりとりを交わしている夫婦をよそに、俺はいってらっしゃいの一言も添えずに、学校に行く準備をしていた。
「龍ちゃんも気をつけてね。雪で地面が滑るかもしれないから」
「……大丈夫」
俺はできるだけ短い言葉でお母さんとの会話を終わらせて、外に出ようとした。そこであることを思い出す。
「お母さん、僕の名前の由来ってなんなの?」
「え? どうして」
「いや、先生から聞いてこいって言われたから……」
今日は道徳か何かの時間で、教室の前で生徒が一人ずつ自分の名前の由来を説明する、という活動がある。最近はお父さんともお母さんともあまり話していないが、これだけは聞いておく必要があった。
「最初は、健児さんが『ドラゴン』って名前にしたいって言ったの」
「……は??」
お母さんの思いもよらない発言に俺は戸惑う。
「もちろん私は止めたよ。それで私も私なりに名前を考えたはいたんだけど、健児さんが、ドラゴンがダメならせめて『龍』のつく名前にしたいって言って私の話を聞かないから、そうするしかなかったの」
「……そっか」
なるほど。今の話は教室の前では話せそうにないな。適当にもっと良い由来を考えておくか。
そんなことを考えながら、俺はいってきますも言わずに家を出た。
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