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静かな病院内に、扉の開く音だけがする。俺は、自分の立てている音に気を使って、扉を開ける速度を少し下げた。
「あら、龍ちゃんじゃない」
ベッドに横になりながら窓越しに外を見ている母は、俺の方を振り向いて言った。
「母さん、体調は大丈夫?」
「全然。外が眩しすぎて目がおかしくなっちゃいそう」
「……なら見なけりゃいいんじゃない? カーテンを閉めるか、こっちを向けば外の景色を見なくて済むよ」
俺が丁寧に解決策を提示してあげると、母は不機嫌そうな表情になった。
「どこを見ても白、白、白。こんな綺麗な雪景色を見るのは今日がきっと最後だから、この目に焼き付けておかないと」
「今日が最後じゃないよ、多分」
そうは言ったが、母の癌は徐々に進行しているらしい。その場を少しでも明るくするためだけの、無責任な発言をしたことを後悔した。
それにしても、久々の雪だ。自分は、子どもの頃は雪に興奮するタイプではなかったが、その頃の雪の降った日のことは、今でもよく覚えている。
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