3 渇望

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「愛など下らない。そんなものどこにもない。……クソ、寒い。もっと燃やせ」  そう言って彼は自分で暖炉に薪を放り込んだ。  中にあった薪が爆ぜ、火の粉を散らした。 「まだ心が残っているのなら、そこで愛を育てることはできるのではないでしょうか」 「俺の心はもう凍てついている。まもなくこれが俺を蝕み、心身ともに凍り付くそうだ。今更なんになる」 「ゲイル様…いえ、ユーゴ様。愛への憧れがあるのなら、赤子と同じように愛を感じたいのなら、もう1度育ててみませんか。今ユーゴ様の心は空っぽなのです。人は愛を与えられなければ愛を育むことはできません。ソレットも、愛を与えられなければきっと愛を知らない子になると思います」 「ふん。誰が俺にそんなもの与えるというのだ。無償の愛など。そんなもの錬金術師の賢者の石と同じだ。眉唾で、どこにも存在しない!」 「では私が、私が一緒に愛をお探します。神様はなんのために僅かに心を残して下さったのですか。ユーゴ様に愛を忘れて欲しくはなかったのではないですか。ユーゴ様に愛をもった王になって欲しかったのではありませんか」  ユーゴは立ち上がると、乱暴にマリアの手を引きソファに押し倒した。 「お前が? はっ! どうやって探す? 貴様は大海原にたった1つ落ちているダイヤを探せるか!?」 「でも落ちているのなら探しに出る価値はございます!」 「いいか、男と女の愛など体以外に何がある! 貴様は体で俺を満たすのか!? どうなんだ! 体を満たせば愛も満ちると言うのか!?」  押さえつけたマリアの体は異様に冷たかった。  湯浴みをし、すぐ暖炉の前で乾かしていたのならもっと温かいはず。  唇はなおも紫。  魅力的とは程遠かった。  その唇が震えながら開いた。 「そうお思いでしたらどうぞお試し下さい。体を繋げた先で愛に満たされたご自分を見つけられると思うのなら、お好きになさってください」  見るな。  そんな憐れむような目で見るな。  クソ、寒い。寒い。寒い。  お前の肌で温めろ。 「いいんだな。泣いても喚いても俺は知らんぞ。愛とやらを俺に教えてみろ」  体は温かいままのユーゴの心は冷え切っていた。  心の温かいマリアの体は冷え切っていた。  どちらの熱がより高かったのだろうか。  哀しい時間が流れ、気絶するように眠ってしまった明け方。  マリアは赤子の泣き声で、1人ソファの上で目覚めた。  体のあちこちに、哀しい痛みが残っていた。
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