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4 無償の愛
クソ、腹が減った。
なんだこれは。
それに赤子が煩い。
マリア! 赤子をどうにかしろ!
ああクソなぜ体がうまく動かん。
誰か! 腹が減った! 何事だこれは!
「おぎゃあ おぎゃあ おぎゃあ」
煩い。
早く赤子をどうにかせぬか!
それに寒い!
下半身がやたら寒いぞなんだこれは!
「おぎゃあ おぎゃあ おぎゃあ」
「ソレット…ごめんね気づかなくて。今お乳を貰おうね」
そうだ。
早く世話をしろ。
さっさと部屋から出て行け。
待て。
なんだ?
なぜマリアは俺を抱き上げている?
抱き…上げ?
「ああ、おしっこも沢山したのね。早く取り換えなきゃ」
「おぎゃあ …ふぎゃ」
「あらどうしたの? 元気ないの?」
マリアが心配そうに俺の顔を見ている。
痛い。
かさついた手で額を触るな。
おい、どこをまさぐっている。
昨日が忘れられないのか。
「熱はないみたいね。お腹空いてるなら遠慮なく泣いていいのよ。その方が元気って証拠だわ」
そうか。
なら遠慮なく食事を要求する。
「おぎゃあ おぎゃあ おぎゃあ」
十分後、ソレットはようやくおしめと服を交換されると、アンの乳を必死に咥え込んだ。
「そんなにお腹すいてたのかい」
うまい。
腹が満たされる。
温かい。
昨日までの寒さが嘘のようだ。
ああ、良い。春のようだ。
ばかもの、食ったばかりでそう背中を叩くな。
「おかしいね。今日はすぐに出ないね。ほら、あとはあんたがやって。替えのおしめはこれよ。早く行って」
「ありがとうアン。助かるわ」
う…
なんだ…
胸がむかつくぞ…
マリア、おいマリア、どうにかしろ!
そうだ、そうやって背中を…もう少し、もう少し強くてかまわん!
「げふっ」
「ああ、やっと出たぁ。上手だね。すっきりしたねえ」
ふう。
どうなるかと思った。
ふう。
眠い。
「いい子ね、ソレット」
ああ、昨日散々奪った唇だ。
柔らかくて優しい。
お前が自発的にしてくれるのはまた格別だな。
昨日のように泣いている顔は…クソ、どうでもいい。
俺は寝る。
『ユーゴよ。女を犯して心は愛に満たされたか』
『そんなもの満たされるわけない』
『お前が得たいのは無償の愛であろう。お前に目を向けてくれた女に手酷いことをしてどうなる』
『うるさい』
『お前に1度チャンスを与えよう。今お前は赤子の姿だ。望んだ無償の愛を受けられるぞ』
『そんなことしてどうなる。元々お前が中途半端に心を残すからこうなったのではないか』
『心無き者に国は治められぬ。マリアの愛を受けて来るがよい。お前が満たされたと思えば元の姿に戻る』
『そして俺は凍てつき死ぬ。1度夢を見させておいて、神とはなかなか残酷だな』
『死んだときは迎えに来てやろう。だが我はお前がこちらに来ることは望んでいない。愛を知った後にどうするかはお前次第だ』
『くだらない…そもそもこの赤子は誰なんだ』
『お産の最中に死んだ母子だ。赤子だけその体を借りた。我が抜ければ赤子は死体に戻る』
『趣味の悪い…』
目が覚めた。
廊下の天井が流れている。
どこへ行くというのか。
この先は…ランドリー?
ああ、洗濯をするのか。
酷いにおいだな。
こんな所で洗濯をするのか。
なんのにおいだこれは…洗濯用の薬品か?
見えない。
マリアはあの手でどう作業をしているのだ。
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