カラスが鳴いた日のこと

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「雪山、もう八十センチくらい盛ったら、スコップで叩いて固めれ。あとは、父さん夜に水撒いてやるから」  振り返るとみかんの袋を手にした父さんがいつの間にか立っていた。 「水?」 「んだ、一晩凍らせれば頑丈になるから。でねば危ねべ? 崩れたら大変だもの」  そういうと昔ゼリーを埋めた場所にみかんを置いて雪をかけていく。  なるほど、だから一晩置いてたってわけか。  最初から父さんに作り方聞いておけばよかった。 「じいじ、みかん~?」 「うん、みかんな、後で皆で食うべな。凍らせれば美味いんだよ、ヒマちゃん」  ヒマワリと同じ目線でよしよしと頭を撫でてる父さんは、私の方を見ないままで照れくさそうに。 「ヒマちゃんくらい、ちっちゃい子だと凍らせたゼリーは危ないんだってな」  どこからか仕入れた知識で孫の安全を願う、父さん。  ヒマワリ会いたさで、東京に遊びに来ることも年に一、二度あるくらい、今じゃ立派な孫溺愛じいさんになった。   「夜に水撒くんですか? 僕も手伝います」 「んだな、カナタくんには覚えてもらうかな。夜だら、もっとしばれるから覚悟しとけよ」  すっかり元気になった父の笑顔に、ホッとする。
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