カラスが鳴いた日のこと

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「あー、向日葵(ヒマワリ)! それは食べ物じゃないの!」    雪の中にしゃがみこみ、手袋の上に掬ったふわふわの新雪を、食べようとしている娘を慌てて止めた。 「え? 食べちゃダメなの?」  その横でしゃがんでいた人も、同じように手袋の上にやわらかな雪をのせて、私を振り返る。  まるで大きな子供みたいな彼にため息が出た。 「もうっ、パパが食べようとしてるから真似しちゃってるじゃん!」 「だってさあ、かき氷みたいで美味しそうじゃない? ね――、ヒマワリ」 「ね――!」  冬の冷たい空気に触れ頬を赤らめ、無邪気な笑顔をのぞかせるヒマワリ。  パパの「ね――」に、意味もわからず相づちを打っている姿が、我が子ながら可愛くてたまらない。  去年の七月に二歳になり、最近は(つたな)いながらも、よくしゃべるようになった。 「ちゅめたいね」  ほっぺたに雪をつけてギュッと目をつぶるヒマワリが、無限に広がるたくさんの白い雪を見るのは初めてのこと。  東京で見る雪は、水分をずっしり含んで重たくて、こんなにもサラサラじゃないので、私の中では別物だ。   「ママもちゅめたい?」  ヒマワリが私の頬にも雪をくっつけるから、わざと大袈裟に。 「え――ん! 冷たい、冷た――い!」  なんて泣き真似をしてみたら、嬉しそうにキャッキャと笑うヒマワリの声が雪原の中で響く。  見渡す一面、真っ白な大地は、夏場はじゃがいもの花が咲き乱れる父の畑だ。  その横にある倉庫の前の空き地が、夏も冬も私の遊び場だった。  今はもう壊れて無くなってしまったけど、父さん手作りのブランコやタイヤのオモチャなんかもあって、小学校の時の友達とよくここで遊んだものだ。  そういえば、冬になると毎年ここに父さんがカマクラを作ってくれたっけ。  よし、やってみるか。
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