それぞれの目的

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「珍しいですね、佐古さんにお連れ様がいるなんて」 「同僚だよ・・・・あれ?野木崎、上着は脱がないのか?ここセルフだから・・・・」 「あ。すみません、お客様・・・・通路が大変狭くなっておりますので、そちらはセルフになっているんですよ。その分、お酒やフードのサービスはしっかりご提供させていただきますので」 「あ、いえ。大丈夫です」 バーテンダーの言葉に杏は愛想笑(あいそわら)いを見せ、手のひらを向けて揺らした。 バーテンダーに背を向けるようにして、脱いだ自分のコートを掛ける隣の佐古に杏は小声で話しかける。 「・・・・てか課長、私脱げないです」 「あ?」 「急いで来たから部屋着だし・・・・」 「別に、ドレスコードなんかないよ。スウェットだって平気だよな?」 佐古は振り返り、バーテンダーに向かってそう言うと(うなず)く彼がいた。 「ええ、特にありません」 「ほら」 「そういう問題じゃないの!」 「ふーん。ま、好きにしろ」 佐古がカウンターチェアに座ったのを見計らって、バーテンダーは声をかける。 「佐古さんはいつも通りで?」 「ああ。・・・・野木崎はどうする?メニューはそこにある。何もないならお任せもできるけど?」 杏はダークブラウンで黒光りするカウンターテーブルに置かれたメニュー表を手に取った。 「課長はいつも何を?」 「俺はジョニ黒」 「ジョニーウォーカー?ウイスキー?」 「正しくはスコッチな」 「ふーん、じゃあ私もソレで」 メニュー表を元に戻してバーテンダーにそう告げた。 「飲み方はどうなさいます?」 「ああ・・・・課長と同じで」 「ストレートですが大丈夫ですか?ロックかソーダで割ることもできますが・・・・」 「ああー、とりあえずストレート?で・・・・」 「かしこまりました」
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