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「頼むから、店には迷惑掛けないでくれ。そこの公園で話を聞く。だから、怒りを一度抑えてくれないか?野木崎・・・・」
コーヒーカップをつかんだ彼女の手に触れてカップを静かに奪い取り、灰皿を同時に持って席を離れた。
乱れた服も、濡れた髪も、直す暇もなく男とその女は店を後にした。
カフェの向かい、道路を渡ってすぐの大きな公園に二人は足を運び、ベンチに並ぶように座った。
「野木崎・・・・さっきも言ったが、会社とはそういうところだ。仕事ができる奴が現場に留まり、根回しできる奴が上に行く・・・・お前は仕事ができる。だから現場に・・・・」
「だから会社が根腐れするんでしょ?使えないヤツが上に行ったって、何も現場のこと考えずに無理な注文ばっかつけて、下のやる気なくして!だから人が減って、仕事が増えて、利益利益って馬鹿の一つ覚えで、給料減らすっていう・・・・バカばっか!」
男は胸ポケットからタバコを取り出して火をつけた。
「・・・・で、どうするんだ?辞めるのか?」
息を吐くと同時にタバコの煙が上がって、野木崎の顔を掠めていく。
「課長・・・・慣れてるんですね、こういうこと・・・・」
「ああ。俺はクレーム処理係だからな。こういう仕事はいつまでもなくならない」
「とばっちり受けて、頭にこないんですか?」
「ああ。・・・・ただ、タバコは当分止められないな」
「なんか、バカみたい」
「馬鹿みたいじゃなくて、馬鹿そのものなんだよ。俺だけじゃない、皆そうさ・・・・自分の首を絞めるのはいつだって自分。嫌にならない方がおかしい」
そう話しながら、男はネクタイを緩めた。
「っていうか、私クビですよね?」
野木崎の顔を不思議そうに見る男。
「なんで?」
「だって私、佐古課長に水ぶっかけたんですよ?そんなの許されることじゃないでしょ?」
「許すも何も・・・・水が乾けば何の証拠も残らない。そんな事実はどこにもなくなる」
「は?」
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