それぞれの目的

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*** 「課長、すみません!」 タクシーを降りてすぐ、事務所として使っている小さなビルの外階段を駆け上がって、4階の部屋のドアを開けると同時に杏はそう叫んだ。 「ああ、早かったね・・・・タクシー?」 「はい・・・・」 「いくら?」 「千円くらい」 「そう。じゃあ・・・・」 佐古は(ふところ)から茶色の財布を取り出し、千円札二枚を差し出した。 「課長、そんな簡単な計算もできないんですか?千円だから一枚で十分。変な気遣わないで下さい!」 静かに息を()いて、手元に残った一枚を財布に戻した。 「じゃあ・・・・お前が嫌じゃなければ、軽く飲んでくか?」 「それは喜んで!」 杏は急に態度を変え、事務所のドアを素早く開けて彼を先に通した。 「てか、今まで残ってたんですか?」 ドアに鍵をかける佐古の背中へ話しかける。 「ああ。今日一人辞めたからね、その処理・・・・」 「私は辞めてないですよ?」 佐古は振り返って、杏の顔を見た。 「君じゃないよ。田辺(たなべ)君・・・・」 階段を下りながら話を続ける。 「ああ、アレか。アレはすぐに辞めそうでしたよ、最初から」 「上にはそんなの関係ない。課の者が辞めれば、課の(おさ)が責任を取るまでさ」 「責任だけ増えて安月給?」 「いや。責任と仕事が増えて、だな」 「そんなんゼッタイ、ヤだわ」
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