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「おまえはわがままだ」
と彼は言う。
「仕方ないの」
と私は答える。
「おれを朝から呼び出して、おれの心を熱くする」
「だって、家族のためだもの」
そう言って、わたしはフライパンの上でラードをまわした。
「そう、いつもそうなんだ。おれを利用するだけ利用して、家族がそんなに大切か」
「あなたには、感謝してる。あなたのおかげで、私は生きていけるのよ」
ラードがとろけて、うっすらと煙が上がる。
「もう、惑わされないぞ。甘い言葉で、いつもおれをコントロールする」
「そうしないと、なにもかも台無しになってしまうから……」
――ジュワ~
溶き卵がすぐにかたまり始める。
「おい、おれの方を見ろ!」
「大丈夫、あなたのことは、見なくてもわかるから」
もう、10年以上のつきあいだ。彼を激しく燃え上がらせながら、私は急いで冷めたご飯をフライパンに加えた。
卵がかたまりきる前に、ザクザクと木べらを動かして、刻みチャーシューや、小口切りのネギも足し、塩、コショウをふりかけて、
――ジュワワワワ~
フライパンの肌に沿って、しょう油をまわし入れる。
徐々に彼の炎を弱め、
「さようなら、またお昼に会いましょう」
そう言って、彼を消した。
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