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ダッシュボードの中には、ぎっしりとお菓子が入っていた
「すごっ!なんで、こんなにお菓子入ってんの?」
「いや、小腹が空いた時食べれるように入れといてんだけど。俺の車に乗ると、そこ開けて食べる奴がけっこう居るからさ。常にストックしといてんの」
車に乗る誰かの為に…
多分、悪い人ではないんだよな…
適当に箱を開けて食べ始める
「葵さんも食べる?」
「いや、俺はいい。柚紀って、人懐っこいなぁ。すぐ友達できるだろ?」
「まあ、そうですけど…葵さんに言われたくないです」
「ははっ。まあ、そうだな」
旨っ
何このチョコ
めっちゃ美味しい
「俺達が今通ってるピアノ教室ってさ、通えるだけでも、けっこう凄くってさ。そんで、運と実力があると、それなりに名の知れた海外の学校に留学する事が出来る」
「へぇ~」
「ピアノやってる奴らは、皆、夢見てる。そんな、限られた者にしか与えられない、奇跡みたいなチャンスが、自分に巡ってこないかって」
皆…
瑞紀も…?
母さんとかには、相談くらいしてたのかな…
「あ!」
「なんだ?忘れ物か?」
「いや、帰り遅くなるって連絡してなかった」
「ああ。真面目だなぁ…って!お前…なんだ?その携帯!」
俺が携帯を出してメールを打ち始めると、凄く驚いてこっち見てる
「ちょっと!危ないから、真っ直ぐ前見てよ!」
「いや、見るけどさ。今時の高校生が持つ携帯じゃねえだろ?それ。」
「友達とご飯食べて帰るから遅くなる。送信っと」
うるさいから、さっさと携帯はしまっておこう
「お前、よくそれで我慢出来てるなぁ。え?もしかして、柚紀ん家ってけっこう大変な感じなの?スマホ買うの大変なくらい?それとも、すげぇ親が厳しくて、持たせてもらえないとか?」
「別に凄いお金持ちな訳じゃないけど、そういうんではないよ。親は、スマホ持って欲しい感じだったけど…。俺も瑞紀も、こっちの方が使い勝手がいいから、これにしてるだけ」
「は?使い勝手がいい?ってか、瑞紀もその携帯なの?スマホにしたら、何だって出来るんだぞ?音楽聞けるし、曲だって作れるし、本も読めるし、映画だって見れる。どこが使い勝手悪いんだよ?」
そこだよ
それ全部が、俺達にとっては葛藤地獄の始まりなんだよ!
「携帯の話はいいからさ。さっきの話の続き!」
「ああ…そうだった。俺と瑞紀は、歳は少し離れてるけど、ピアノ始めた時期は同じ頃で、実力も同じ位だった。コンクールとかでもさ、瑞紀に勝ったり負けたり。負けたら次こそはって思って練習して…。でも、多分、瑞紀の方が才能があるんだ。俺は一生懸命練習して、技術とか、表現力とか磨いて…。だけど、あいつは…なんか、そういうんじゃないんだよ。自分のレベルが上がれば上がる程、瑞紀の異質さに気付かされて…」
そりゃ…
生まれ持った才能だもん…
だけど、この人は、努力して……
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