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「ま、それはしょうがない事なんだ。皆それぞれ持ってるものも、感性も違うし。だから、あいつが凄いのはいいんだよ。目の前に越えてやる目標が居るわけだし。ただ…皆そうして、必死になっても手に入れられない、奇跡のようなチャンスが目の前にあるのに、それを迷いもせず手に入れようとしないあいつが許せない」
葵さんが言ってること、分からなくはない
俺だって勿体ないと思うし
必死に同じものに取り組んできた人なら、理解出来ないと思うのも当然だ
「どうせ瑞紀に聞いても、答えてなんてもらえないからな。俺はピアノの先生に聞いてみた。そしたら、瑞紀君は、とても家族を大切にしてるからって。特に1つ下の弟を溺愛してるから、日本を出て行くなんて事ないでしょうねって言ってた」
俺…瑞紀のピアノの先生に、そんな風に思われてんの…?
いい歳して恥ずかしい
そう思ったら、なんか暑くなってきた
「ん?何やってんの?」
「いや、なんか暑くて…上着脱ぐ」
「暑い?少し窓開けるか?」
「うん…」
あ、涼しい
「あれ?何の話だっけ?ああ…瑞紀は外国行かないって、先生が言ってたんだっけ?」
「ああ…。って、柚紀、具合悪いのか?」
「いや、なんか、暑くて少しぼーっとするだけ。涼しくなってきたから大丈夫」
「そうか?……だからさ。俺達が一緒に目指してた未来っていうか、夢があって、一緒に目指してるって思ってたのに、あいつは、それより全然大切なものがあったわけだ。俺はさ、何て言うか…ちょっと裏切られたような気持ちになったんだよ…」
なんか…頭ぼーっとするけど…
葵さんが一生懸命なのは分かった
ネクタイを緩めて、ボタンを外すと、だいぶ楽になる
「俺が選ばれたのは勿論嬉しいし、俺は迷わず行く。でも、それが、瑞紀にとっても、同じ位嬉しいものじゃなかったんだって……って……お前、寝てんじゃねぇか!」
「ん…ごめん。なんか…眠くなって……」
「ったく!」
あ…車停めてくれた
シートベルト外して、椅子、倒してくれた
やっぱ優しいんだな
「葵さん……優しい…から」
「あ?」
「瑞紀…事…気にしないで……葵さん……いっしょ……けんめ……」
「一生懸命なんて、俺だけじゃない。皆、一生懸命なんだ」
よく分かんないけど、この人、迷ってないって言ってたけど、迷ってるのかな?
「瑞紀……かんけ……ない………葵……さん……たいせつ………もの……」
瑞紀が何を選んでも
瑞紀が何を大切だと思っても
一生懸命やってきた葵さんが大切だと思うものは、ちゃんと大切だよ
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