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松風は、今か今かと香桜を待っていた。
部屋に通されて幾時間、出入りする者は女中のシマナミただ一人だけだ。
「香桜はまだか?」
声のトーンだけで松風がイライラしているのがわかる。
「はい。今しばらくお待ちくださいませ」
と、シマナミは松風のために生けた梅の花を床の間にそっと置いた。
チビチビと盃を傾けていた松風の手が止まる。
「ほう、梅が咲いたか」
「はい。庭の白梅が咲いたので、香桜さまが松風さまへ、と・・・」
と、シマナミは松風の隣に座り、酒の続きを注いだ。
「さすが香桜だ。ワシの好みをわかっておるな」
と、グイッと飲み干すと
「どうだ、そなたも一献」
と、空いた盃をシマナミに渡した。
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