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客間廊下の突き当たり。
椿の間の襖の前に膝をつき
「シマナミにございます」
と声をかけた。
「おお、シマナミか。入れ」
と、男の声がする。
行灯の明かりに照らされた男は小柄だが、纏っているオーラがただ者ではない事を示していた。
「御船さま、お久しぶりにございます」
その男は御船という。
膳に箸を置き、隣に座っている香桜の盃に酒を注ぐ。
香桜はその盃をシマナミに差し出し
「一献、やらぬか?」
と酒をすすめた。
シマナミは黙って両手を出し、盃を受け取ろうとするが、指先がふるふると震えていて覚束ない。
「震えるほど、清々したのか」
と香桜が笑うと
「清々すると思っていたのですが・・・・」
と、シマナミはやっとの思いで盃を口にした。
「長年、この日を待ちわびていたのであろう・・・どうしても父上殿の仇を自分で取りたいと願ったのはシマナミ自身なのだから」
香桜の言葉にシマナミの唇が歪んだ。
「そうなのです。我が父上を惨殺され、土地もすべて奪われ、わたくしは幼い弟と2人、食うものも食わずに生きてきたのですから・・・・」
シマナミの手の甲に涙が落ちる。
「こんなに長い年月、恨んで恨んで生きてきたのに、アイツの息の根を止めるのは、あっという間でございました・・・なんと、あっけない事でありましょうか」
と、シマナミは着物の袖で涙を拭った。
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