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「この沙汰は御船さまと私がすべて請け負う。その代わり、そなたはこの事、命尽きるまで口外するでないぞ。あの男は幼いそなたや弟の幸せを奪ったのだ。だから気に病む必要はない。そなたは早く弟を迎えに行き、2人で里へ帰り仲良うして暮らせ。松風が私に注ぎ込んできた金をすべて持って行け。弟と2人、生きていくには事足りるであろう」
と、香桜は風呂敷包みをシマナミに渡した。
「御船さま。香桜さま。この御恩、シマナミ生涯忘れませぬ。ありがとうございます」
シマナミは深々と頭を下げた。
空気が凍るように冷たい。
シマナミは遊郭の格子戸を閉めると、また深々と一礼して、歩き出した。
道すがらずっと後を着いて来ているのが好光だということにシマナミは気づいていた。
遊郭の街を無事に出るまではこうして、身の危険がないか見守るようにと香桜さまに言われているのだろう。
「姉さま!姉さま!」
大門の下に弟の姿があった。
シマナミは一目散に弟に駆け寄ると、その小さな体を抱きしめた。
「どうして、ここへ?一人で来たのか?」
その問いに弟は
「あの男の方が連れて来てくださったのです。姉さまがここを出られるから、と」
と、街の中を指差した。
が、そこには誰も居なかった。
大門をくぐり抜ける時、誰も居ない暗闇にシマナミは軽く一礼し、弟と2人、街を出て行った。
今宵も誰かの命が散る。
散るべくして、散るのだ。
了
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