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目覚めると朝食の匂いがした。 いや、朝食の匂いがして目覚めたのか。 あれ? 俺は親の家に泊まったのか? 「加藤様、おはようございます」 「ん?」 母さんの声じゃない……あ、佐藤さん。 佐藤さんが俺に、おはようございますと。 そうか、昨日のことは夢じゃなかったようだ。 これ、夢、じゃないよな。 「はい。本物の佐藤でございます」 「……おはようございます」 「朝食を御用意いたしております」 「ありがとうございます。でも、すぐには食べれないかな」 起きてすぐには。 「ご心配なく。空間収納しておりますので」 「なるほど、匂いだけなのか」 「はい」 朝食を空間収納すると冷めないのだろうな。 顔を洗い歯磨きをして服を着替えると、佐藤さんは朝食を用意してくれた。 和食だ。旅館の朝食みたいな。 「いただきます」 「はい」 佐藤さんはとても料理が上手い。 佐藤さん、未婚なのか? でも恋人とかいそうだけど、俺と1年間24時間一緒にいて大丈夫なのだろうか。 「ご心配なく。フリーですので」 「はあ」 そう、佐藤さんは俺の心をだいたい読めるのだ。 近距離で2人きりなら、その相手の考えがだいたい分かるらしい。 近距離に佐藤さんの他に2人以上いると、思考が絡まってほとんど読めないそうだ。 殺意とか悪意、好意とかは分かるそうだけど。 俺は幻覚魔法をかけられているのかもしれない。 いや、変な薬とか飲まされて幻覚を見ているのかも。 まあ、いいか。 夢や幻覚ならいつかは覚めるはずだから。 「加藤様、名刺を作成しておきました」 「名刺を?」 「はい、このような」 渡された名刺は2枚。 俺はプラス家電株式会社の社外取締役となっている。 佐藤さんは社外取締役担当秘書らしい。 「俺が社外取締役?」 「はい。特別会員期間だけですが」 「なるほど」 社外取締役って何をするのだろうか。 「特に決まってはいませんが、散歩や旅行ついでに全国のプラス家電店舗の視察とかでもよろしいかと」 「ふむ」 プラス家電には毎日のように行っている。俺はプラス家電の店舗に行くのが大好きなのだ。 親がプラス家電の店舗に行くのが好きで、俺も小さな時から一緒に行っていたからかもしれない。 全国のプラス家電店舗の視察か。 ふむ。それは面白そうだな。 プラ電店舗コンプリートをしてみるか。 しかし、プラ電の店舗数は215。 家電量販店で店舗数が200以上ある会社は5社あり、その5社が大手家電量販会社と呼ばれるようだ。 各都道府県に最低でも1つの店舗があるから、全ての都道府県に行かないとコンプリートできないわけで。 まあ、1日に1店舗を視察すれば215店舗だから1年以内にはコンプリートできるけど。 たまには店舗視察を休んで観光とかする余裕もあるな。 しかし、佐藤さんはプラ電に3人しかいない特級魔法使いらしい。 俺の専属秘書なんてやっていて、のんきに全国を視察旅行とかしてていいのか?   「よろしいです」 「はあ」 よろしいのか。 「産業スパイや反社会的勢力とかなど、B級やC級魔法使いでも対応できますので」 「え? プラ電の魔法使いって、そんなのに対応しているの?」 「はい。ライバル企業も利益確保に必死ですからね。裏では卑怯な事もしています」 「なら、警察とか」 「警察の上層部や政治家とかに黄金色のまんじゅうとかプレゼントしてますので、だいたいのことは揉み消されます」 「なるほど」 「マスコミはスポンサーに対して弱気ですし」 「そっか」 みんな真面目に真っ当に商売すればよいのに。 それとも、真面目で真っ当な商売では利益は出ないのか。 大手食品企業でも産地偽装や消費期限改ざんとかしてるもんな。 さて、日課の筋トレをしますか。 俺は午前中に自宅で筋トレをしているのだ。 俺は少し普通と変わっているのだが、それは性格だけではなくて筋力もなのだ。 身長は178cmでそれほど長身ではないが、とにかく力が強い。 小さな時から強かったらしい。 俺は普通に友達と遊んでいるつもりだったのに、気がつくと友達が怪我をしていたとか。 友達の手を握ると友達の手の骨が折れてたりとか。 なので、俺は学校でなるべく1人で過ごすことにしていた。 人と競うことが嫌いな俺はスポーツもしなかった。 知らず知らず相手を怪我させたりするのも嫌だったし。 だけども、1人でもくもくとする筋トレは好きなのだ。 もくもくと筋トレする俺。 そんな俺を見ている佐藤さん。 佐藤さん、つまらなくないか? 佐藤さんも筋トレしないかな。 いや、佐藤さんは2トンの乗用車も軽々と持ち運べるのか。筋トレなんか不要だな。 「ふー、終わった」 「お疲れさまです」 「いや、そんな疲れてないけどね」 「それにしても」 「ん?」 「素敵な筋肉ですね」 「そう?」 「はい、とても」 俺の筋肉をペタペタする佐藤さん。 佐藤さん、筋肉フェチなのか? さて、シャワーを。 佐藤さんも素っ裸になって一緒にシャワーをしている。 いや、佐藤さんは汗なんてかいてないよね。 「佐藤さん」 「はい」 「佐藤さんも一緒にシャワーをする意味がありますか?」 「意味がないような事にも意味はあるものです」 「そう、ですか」 「そうなのです」 そうか? 佐藤さんはちょっとエッチな事もしてくれた。 「佐藤さん」 「はい」 「俺にちょっとエッチな事をするのも意味が」 「もちろんあります」 「はあ」 まあ、俺は気持ち良いからいいけど。 「あの」 「はい」 「答えたくないなら答えなくていいですけど」 「特別会員様の専属になるのは、私は加藤様が初めてです」 「あ、はい」 「ちなみに、私は処女です」 「えっ、と……そう、なんですね」 「はい」 そうか、佐藤さんは他の特別会員にこんな事をしたことはないのか。 そうか、佐藤さんは処女なのか。
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