12人が本棚に入れています
本棚に追加
10
半グレというか詐欺師というか、女のヒモというか。そんな(事故とかで死んでくれたらいいのにと思っていた)兄貴がマグロ漁船で働いている、らしい。
佐藤さんが兄貴に催眠魔法をかけて、いろいろとやってくれたそうだ。
プラ電会長の許可を得てやったことらしいけど。
いくらプラ電会長の許可だとしても、そんな事をやっていいのかと思うが。
まあ、俺としても両親も助かるから良いのだが。
両親には教えておくか。
あんなのでも息子だもんな。
佐藤さんと一緒に両親が住むマンションへ。
「兄さんさ、マグロ漁船で働いているらしいよ」
「「は?」」
まあ、そんな反応をするよな。
ネットの画像を見せた。
マイチューブで兄貴は「マグロ漁船に乗ってみた」という番組を配信しているのだ。
もちろん、佐藤さんが裏で手配しているのだけど。
「……信じられん。あいつが真面目に働いている」
「そうよね、あなた」
似ている別人ではないかと。
「兄さんさ、心を入れ替えて稼いだ金は迷惑をかけた人たちへ分割で払っているらしいよ」
「……そうか」
「良かったわね、あなた」
両親が泣いている。
やばい、俺も泣きそうだ。
佐藤さんが俺の兄貴にかけた催眠魔法は1年間で効果が切れるらしい。
先月、日本に寄港した時に催眠魔法をかけ直したらしいけど。
1年後、効果が切れる前にかけ直ししてもらうのを忘れないようにしなければ。
1年後と言えば、俺のプラ電特別会員の期間も切れてしまう。
期間延長には再度、入会費の1億円が必要らしい。
それまでに佐藤さんと結婚したら、特別会員の期間延長はしなくてもよいのでは。
「特別会員でないと私からのサービスは停止しますが」
「えっと……プライベートも?」
「もちろんです」
うわー。
「エッチなこともしてくれない?」
「もちろんでございます」
「手料理も作ってくれない?」
「さようでございます」
そうなのか。
貯金が9億円はあるから、8年くらいは期間延長できるけど。
これから60年くらい佐藤さんと夫婦でいるには70億円くらい必要ってことか。
……。
株とかして稼げるだろうか。
8年後に「すみません、貯金が無くなったので離婚してください」って、情けないもんな。
何とかして年間1億円くらいの所得を得なければ、俺は少なくとも8年後には情けない男になってしまうぞ。
俺の自慢できるものといえば、筋肉くらいか。
筋肉で年間1億円くらいの所得をこの先、60年くらい得られるだろうか。
佐藤さんに相談してみよう。
「あの、俺も異世界の魔法学園に入学して魔法使いになったら、年間1億円の利益くらい稼げるかな?」
「まず、魔法学園に入学するにはプラス家電株式会社の正社員になる必要があります」
「社外取締役は駄目なの?」
「駄目だと思いますが」
駄目なのか。
「それに、私が思うに氷狩さんに魔法使いとしての素質は皆無……いえ、少ないかと」
「そうなの?」
「はい。特級魔法使いならそれくらいはだいたい分かります」
「だいたいなら、もしかして」
「会長にお願いして試してみますか?」
「何を?」
「魔法使いになれる素質があるかないか」
「それ、簡単に分かるの?」
「特殊な水晶を触るだけです」
「じゃあ、病院で特殊な検査とか痛いとかないね」
「ないです」
俺は魔法使いの素質があるのかないのか調べることにした。
本来はプラ電の正社員にならないと調べてもらえないらしいけど、俺は特別会員だから。
魔法使いになるには、魔法使いとしての修行を若い時から開始したほうが良いらしい。
まあ、当たり前か。
で、遅くとも18歳までには開始しないと、A級や特級の魔法使いにはなれないとか。
絶対になれないかは分からないが、前例がないそうだ。
頑張ってB級魔法使いになれば、年間1億円の利益を稼げるだろうか。
プラ電の会長室で魔法使い適正検査をすることになった。
「加藤さん、この水晶は特別製で30億円はします」
「はー、お高いんですね」
「もしも割ったりしたら弁償ですので、そっと触ってください」
「分かりました」
会長さんから説明があった。
俺は慎重にそっと触った。
パキッ
「ええっ!?」
水晶が真っ二つに。
「あわ、あわわっ」
俺は必死に水晶をくっつけようとしたが、くっつくわけがない。
「お、終わった……」
これ、俺もマグロ漁船に乗せられて30億円を払えってコースなのか?
「はい、ドッキリ成功〜」
「え?」
振り返ると、佐藤さんが「ドッキリ成功」のプラカードを持っている。
はい?
「いや、すまない。私がやってみたかったので佐藤さんに協力してもらった」
「……」
おいおい、会長さんよ。
「これが本物の魔法使い適正検査用の水晶です。特級魔法使いの私でも壊せないので安心して触ってください」
「はあ」
佐藤さんが空間から水晶を出してテーブルへ置いた。
触ってみた。
どうなの?
佐藤さんは、「やっぱりね」みたいな顔をしている。
会長さんはアメリカ人みたいな「まったく駄目だね」みたいなジェスチャーをしている。
そのジェスチャー、地味に落ち込むんですけど。
「俺、適正なしですか」
「そうですね」
「加藤さん、B級魔法使いになったとしても所得は700万円ですよ」
と、会長さん。
「プラ電社員ならですよね。独立して何かすれば」
「魔法使いは定年まで退職を許しません」
「副業すれば」
「弊社は副業禁止です」
とにかく、この適正検査は意味がまったく無かったのか。
「加藤さん、ドッキリのお詫びにアドバイスを」
「え?」
「社外取締役として弊社の特級魔法使いである佐藤さんを使い、利益を出すことは大丈夫です」
「そうなんですか?」
「はい。ちゃんと確定申告はしてください」
「それは、はい」
そう言えば、佐藤さんも「私を上手く使えば特別会員の入会費くらい稼げます」みたいなことを言ってたような。
「佐藤さん、俺はどうすれば」
「それは加藤様がお考えください」
「え?」
「失敗した時に私のせいにされても困りますので」
「あ、はい」
それはそうだな。
自分の人生を他人任せにしたら駄目だよな。
「犯罪行為以外なら御協力いたしますので」
「分かりました」
佐藤さんの魔法を使って銀行強盗をするとか駄目だよな。
最初のコメントを投稿しよう!