13

1/1
前へ
/22ページ
次へ

13

佐藤さんが言うには、俺はプラス家電株式会社から購入した家電の効果で、すごい筋肉の超人になったらしい。 「それはプラ電効果です」、だと。 どういうこと? 家電から筋肉を強化する振動波でも出ていたのか? 「100メートル走で人間として初めて9秒を切った日本人、知ってますよね」 「あ、うん。すごいよね」 確か、今の世界記録はその人の8秒88だったかな。 2番目の人は9秒57とかだったか。ぶっちぎりで世界一だよ。 「高卒ルーキーなのに大リーグでホームラン70本、盗塁100、投手として20勝をあげ三冠王と盗塁王、最多勝を同時に達成した日本人いますよね」 「うん、あの人もびっくりだよ」 最近、10年3000億円で契約更新したとか。 二刀流で有名だった日本人選手も霞んでしまう大活躍だもんな。 「他にもスポーツ分野で超人的な成績を残している日本人の若者は何人かいます。その人たちは生まれた時からほぼ、プラ電で購入した家電のみに囲まれて育っています」 「あ……なら、俺も」 「はい。氷狩さんの家の家電は全て」 「プラ電で買ってる」 「そうです」 そういうことか。 あれ? じゃあ、俺の兄貴は? 「超人になる効果は個人差が大きいようですね」 「なるほど」 体質的なものなのか。 まあ、あの兄貴が超人的な肉体を持っていたらかなり困ったことになっただろうし。結果オーライか。 「プラ電は、会長は狙って超人を作ろうと?」 「いえ、それはたまたまらしいです」 本当だろうか。あの水晶ドッキリといい、あの会長なら「日本人に超人がそこそこ誕生したら面白いよね」くらい考えそうだけど。 俺は知らず知らずのうちに、自分の意志とは関係なく筋肉超人にされたわけで。 この筋肉のせいで親しい友人はできなかったし。 この筋肉で人を傷つけないように、びくびくしながら暮らしていたし。 「でも、その筋肉のおかけで助かったことも多いですよね?」 「え?」 「階段から落ちた私を助けたり」 「あ、うん」 首をしめてきたり包丁で刺してきたりした兄貴からも、この筋肉は俺を守ってくれた。 車にはねられた時も、この筋肉がなければ俺は死んでいたかもしれない。 そうか、俺はこの筋肉に助けられていた。 親しい友人ができなかったのも、もともとの俺の性格かもしれない。この筋肉でなくても親しい友人はできなかった可能性はある。 なんなら、いじめられていたかも。 それに、佐藤さんみたいなすごい美人と婚約できたのも、この筋肉のおかけで。 ありがとう、俺の筋肉。 しかし、どうせなら俺もスポーツで世界一になれるくらいの超人になりたかった。 「今からでも重量挙げとかなら世界一になれると思いますが」 「うーん。重量挙げがだめとは言わないけど、どうせなら格好いいスポーツで」 「そうですか」 「うん」 「スポーツは生まれ持っての素質も重要ですし」 「まあ、そうだよね」 俺は闘争心がないから格闘技は向いてないだろうし。 そう言えば、父さんも母さんもレスリングをしていたらしい。 同じレスリングクラブに通っていて、そこで仲良くなったとか。 大きな大会で優勝するようなレベルではなかったらしいけど、そこそこだったらしいし、俺の筋肉は両親の遺伝なのかも。 その割に俺にはまったく闘争心がないのは不思議だ。 殺人者の子供がみんな殺人者になるわけでないし、平和主義者の子供が殺人者になることもあるだろうけど。 いや、兄貴にはイラッとして殴っていたか。 あれは闘争心というより、家の中のうるさい虫を排除したいみたいな気持ちだった気もする。 まあ、他の超人みたいな人たちが子供を作って、その子供たちに異常がないってことは俺も子供を作って大丈夫だよな。 心配事が1つ減ったな。 「それに、氷狩さんは他のスポーツ超人たちよりもすごいかもしれません」 「え?」 「99.999%確実だと思うのですが、おそらく氷狩さんには魔法が効きません」 「ん?」 「私が乗用車とかを空間収納するの、見えてますよね」 「もちろん」 「私、半径10メートルは認識阻害魔法をかけてるんですけど」 「えっと」 「それなのに、認識阻害空間内にいる氷狩さんが、私の使っている魔法を認識できるのはおかしいのです」 「あ、そうかも」 「なので、おそらく氷狩さんにはどんな魔法も効果ありません」 「そうなの?」 「はい。特級魔法使いの私の魔法を無効化できているので」 「なるほど」 それ、そんなにすごいの?   俺からしたら、オリンピックで世界記録や大リーグで新記録を作るほうがすごいと思うけど。 「氷狩さんは魔法使いの天敵ですね」 「いや、そうかな?」 「そうですよ」 でも、物理的な攻撃には負けるよね。 核攻撃とかされたら確実に死ぬ自信はある。 「そのような攻撃は私が防御魔法で守ります」 「核攻撃からも守れるの?」 「特級魔法使いなので」 「へー」 すごいな、特級魔法使いは。 「飲食物も核シェルターに備蓄してある物を空間魔法でお取り寄せできますから、安心してください」 「うん」 「もし、全世界規模の核戦争で地球に住めなくなったら、会長が異世界へ避難させてくれますので」 「そうなの?」 「はい。氷狩さんは特別会員ですから」 「なるほどね」 すごいな、プラ電特別会員。そんな特別サービスもあるのか。 なんだか入会費の1億円がとても安く思えてきた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加