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日本の家電量販店では売り上げ3位のプラス家電株式会社。
プラ電と呼ばれることが多い。
プラ電は絶対に値引き販売をしないことで有名だ。
なので、利益率は日本の家電量販店の中ではトップらしい。
まあ、絶対に値引きしないから当たり前か。
絶対に値引きをしないのにそこそこ売れるのには理由がある。
どうしてか、プラ電で売っている家電は性能が良いのだ。
同じ家電メーカーが作る同じ製品なのに、他の家電量販店で買うよりプラ電で買う製品のほうが性能が良い。
例えば炊飯器。
同じ型番の炊飯器なのに、プラ電で買った炊飯器は他の家電量販店とかで買った炊飯器より美味しく炊ける。
そして、例えば5年間の保証金を払えば基本的に5年間は壊れない。
もちろん故意に落としたり壊そうとかしたら壊れるけど、普通に使っている限りは絶対に5年間は壊れないのだ。
プラ電で買ったDVDレコーダーでエロDVDを再生すると、他所で買ったDVDレコーダーで再生するよりモザイクが薄かったりする。
そして、画像はとてつもなく美しい。
なので、お金に余裕がある人や家電が壊れるとイラッとする人とかは、値段や保証金は高いけどプラ電で家電を購入するのだ。
俺は佐藤さんに質問した。
「プラ電で販売している家電って、他所で売っている物より性能は良いし壊れないけど、何か秘密があるんですか?」
企業秘密で教えてくれないか。
「特別会員の加藤様には特別にお答えします」
「お願いします」
教えてくれるんだ。
「それはですね」
「それは?」
「魔法を使っているからです」
「なるほど」
まあ、そう簡単に企業秘密を話したりしないよな。
「プラス家電株式会社、プラ電には魔法使いが235名おります」
「へえー」
「私みたいな特級は3名しかいませんけどね」
ドヤ顔の佐藤さん。
「そうなんですか」
「はい。下はE級からA級までいます」
「そうすると、特級はS級みたいなものですか」
「そうですね」
どうしてS級ではなく特級なのだろう。特別だから?
「プラ電の社員に235人?も魔法使いがいるとすると、他の会社とかにも魔法使いっているんですね」
「いえ、世界広しといえど魔法使いがいる会社は地球ではプラ電だけです」
「そうなんですか。なぜに?」
「プラ電の会長が異世界帰りの元勇者だからかと」
「えっ? プラ電の会長さんって、元勇者?」
「はい。自由に日本と異世界とを行き来できるので、魔法使いの素質がありそうな社員を異世界の魔法学園へ連れて行くのです」
「なるほど」
「私は高卒でプラ電に入社したのですが、魔法学園に行かされ5年で首席卒業しました」
「ほほう」
だとすると、少なくとも佐藤さんは23歳なのか。
俺は22歳だから少しだけ佐藤さんがお姉さんだな。
「私は21歳ですよ」
「え?」
高卒で魔法学園に5年間。計算が合わないけど。
「異世界での5年間は地球時間では数時間なのです」
「そうなんですか?」
「はい。じゃないとプラ電の社員は行方不明者になります」
「なるほど」
それはそうか。社員が5年間も行方不明になるとか大騒ぎになるよな。家族や友人とか探すだろうし。
異世界の魔法学園に行ってきますとか説明しても納得してくれないだろう。
よくできた設定だ。
さて、そんな異世界漫画みたいな話はおいといて、商談だ。
「親の家の冷蔵庫がそろそろ10年になるんです」
「プラ電保証期間が切れるのですね」
「はい」
冷蔵庫の保証は最長で10年なのだ。小さい冷蔵庫とかは5年保証とかだけど。
俺の親は保証期間が切れる前に家電を買い替える。
佐藤さんは、何もない空間から冷蔵庫のカタログを何冊も取り出した。
どこから出してるの?
「御予算は」
「500Lクラスで最上位機種を」
「ありがとうございます。それですと、こちらがおすすめです」
「……」
佐藤さんは何もない空間から冷蔵庫を取り出した。
え? そのクラスの冷蔵庫って80キロくらいあるよね? 佐藤さん、軽く持ってるよね。
佐藤さんは大きな冷蔵庫をそっと音も立てずに床へと置いた。
それ、サンプル品で3キロくらいの重さなの?
「どうぞ、御検討ください」
「ありがとうございます」
冷蔵庫の扉を開ける。
この重量感は本物の冷蔵庫だな。
こんな重量の冷蔵庫を軽々と持ち運べる佐藤さん。実は重量挙げ選手なのか?
いや、すまない。流石に俺も分かった。
佐藤みるくさんは本物の魔法使いだ。
俺が催眠術にかけられているとかでなければ。
10年保証込みで40万円の冷蔵庫を購入した。
他の大手家電量販店で購入すれば20万円くらいで買えるはず。
しかし、俺と俺の親はプラ電で購入するのだ。
プラ電で購入した冷蔵庫に食材を入れておくと美味しくなるし、保存期間も長くなる。
少しだけ味付けに失敗した煮物とか入れておくと、数時間で普通に美味しい煮物に変わるのだ。
流石に完全に味付けに失敗した煮物とかは美味しくならないけど。
代金の半分は俺が出す。なんて親孝行な息子なのだろう。
「今から設置に行きますか?」
「え?」
「よろしければ私が設置いたします」
「えっと、お願いします」
「かしこまりました」
佐藤さんは何もない空間に大きな冷蔵庫をそっと入れた。
なるほど。空間魔法なのな。
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