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俺の父親は地下鉄の運転手、母親はスーパーでパートをしている。 今の時間だと両親は不在だけど俺は合鍵をもっているのだ。 両親の住むマンションは俺名義だし。 俺は高卒だけど、大学に行こうと思えば学力も金銭的にも行くことは可能だった。 しかし、俺は少し変わっているらしくて友人も少なく、やりたい事も特にない。 なので、特に無理して大学に行く必要もないかと思ったし。 楽しいキャンパスライフとかサークル活動とか、こんな俺がやれるイメージがなかったしね。 で、適当に受けた大手パン会社の採用試験に合格して入社した。 そこのパワハラ上司に怪我をさせて懲戒解雇になったのだが。 懲戒解雇になった日に買ったスポーツくじで12億円が当選した。 そして、俺は死ぬまで無職という天職を得たのだ。 人生とはわからないものだ。 佐藤さんの運転する車に乗り親のマンションへ。 空間移動とかしないのか。 「残念ながら、地球で空間移動ができるのは弊社の会長くらいかと」 「そうなんですか」 「地球と異世界とを自力で行き来できるのも会長だけですし」 「へー」 プラ電会長は異世界帰りの元勇者らしい。 「そうすると、元勇者の会長さんも魔法使いなんですね」 「いえ、会長はとても速く動けるだけの能力者です」 「え?」 「異世界に勇者召喚された時に得た能力で、光より速く動けるそうです」 「ほへー」 いや、びっくりして変な声が出てしまった。 光より速く動けるって凄いな、プラ電会長。 そりゃあ、魔王なんてさくっと倒せるよな。倒したんだよな? 光より速く動ける勇者に勝てる魔王なんて想像できないし。いや、動きを止める拘束魔法とか使える魔王なら負けないのか? 光速には拘束とか。 「なので、異世界から地球へ、地球から異世界へも移動が可能らしいです」 「なるほど」 しかし、そんなに速く動いて周囲の空間は大丈夫なのだろうか。ハリケーンや竜巻みたいな暴風とか起こらない? 「光速を超える。それはこの世の理を超えているので、周囲に物理的な問題は起こらないようですね」 「はあ、そうですか」 そうか、この世の理を超えているのか。 流石は異世界帰りの元勇者だな。 俺の親が住むマンション前に到着した。 「あ、駐車場所は」 借りている地下駐車場には親の車が駐車しているはず。父親は徒歩と電車で通勤しているし。 来客用の駐車スペースが数台分あるけど、事前に借りておかないと駐車できない。 近くのコインパーキングにでも。 「駐車場の心配はございません」 「え?」 車から降りた俺と佐藤さん。 佐藤さんは車を空間収納した。 車も空間に収納できるんだね。 「流石に乗用車ですと数時間しか収納できませんけど」 「そうなんですか」 「はい。なので、駐車スペースがあるなら普通に駐車します」 「なるほど」 ん? 会社の駐車スペースに戻すとかすれば良いのでは。 「それですと、もしもそのスペースに他の車が停まっていたり人がいたりしたら大惨事になりますので」 「あ、なるほど」 それはそうか。 佐藤さんは新しい冷蔵庫を設置して、古い冷蔵庫は空間収納した。 「佐藤さんって、プラ電で販売している全ての製品をひとつずつ空間収納しているの?」 「え? いえ、まさか」 「さっき、おすすめの冷蔵庫をすぐに出したけど」 「それは、プラ電の家電倉庫から取り寄せただけですので」 「あ、なるほど」 そういう仕組みなのか。 「本日の御予定は他に何か」 「御予定……まあ、散歩するくらいかと」 「お付き合いいたします」 「いや、いいよ」 「いえ、加藤様をお守りするのが私の役目でもあります」 「いや、でも1年間24時間守れないよね」 「守ります」 「え?」 「特別会員期間内なら1年間24時間、私は加藤様をお守りします」 「えっと……ありがとう」 「いえ」 深夜とか魔法でリモートで守ってくれるのだろうか。 「加藤様のマンションに車を駐車しても」 「あ、いいよ」 俺の住んでいるマンションなら駐車スペースは空いている。 俺は車は持ってないけど、1台分の駐車枠があるのだ。 親の住むマンションから10分ほど歩いた距離に俺が住むマンションはある。 その駐車スペースに佐藤さんは車を空間から出して、そっと置いた。 2トンくらいある大きな乗用車なのに凄いな。 それから夕方までぶらぶらと佐藤さんと散歩した。 マンションへ戻る。 「じゃあ、佐藤さん。今日はありがとうございました」 「御夕食をお作りいたします」 「いや、いいよ」 冷凍スパゲティとか食べるし。通販で買いだめしているのだ。 「いえ、食生活面で加藤様の健康を守るのも私の役目ですので」 「なるほど」 食材はある程度の量を空間にストックしているらしい。 佐藤さんの手料理は凄く美味しかった。 佐藤さんも一緒に食べてくれたし。 「ごちそうさま。凄く美味しかったです」 「ありがとうございます」 いや、お礼を言うのは俺のほうだけど。 「俺、休むから佐藤さんは適当に帰ってね」 「え? 帰りませんけど」 「は?」 「加藤様を1年間24時間お守りするのが役目です」 「えっと……」 「労働基準法違反とか心配は無用です」 「あ、うん」 いや、そのような心配はしてないけど。 まあ、いいのか? まあ、佐藤さんと一緒にいて俺は嫌じゃないし、まあいいか。 今から朝まで、佐藤さんのことは空気だと思うことにしよう。 頷く佐藤さん。 空気になるのを理解してくれたようだ。 さて、風呂に入るか。 佐藤さんも一緒に脱衣場に入ってきた。 いや、この佐藤さんは空気だから。 佐藤さんも素っ裸になった。 素っ裸の佐藤さんは空気だ、興奮してはいけないぞ、俺。 なるべく見ないようにしているが、ついついちらっと見てしまう。 佐藤さんが俺の身体を洗ったりしてくれる。興奮している俺のも洗ったりしてくれた。 うん。これは空気みたいな手が俺の身体を洗ったりしてくれているのだ。 風呂から出ると、佐藤さんが俺に少しエッチな事をしてくれた。本格的なエッチではなく、ちょっとしたエッチだ。 うん。この佐藤さんは空気人形だ。 いや、しかし、空気人形の佐藤さんの人肌がやけに生々しく感じる。 いや、これは特別会員向けの特別なサービスの幻覚魔法に違いない。 そうだ、これは幻覚魔法なのだ。   こんな凄い幻覚魔法を体験できるとは。1億1000万円を払った価値はあるな。
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