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俺は22歳で無職だ。しかしニートではない。
去年、スポーツくじで12億円が当選しマンションとか買ったけど、まだ10億円……いや、プラ電の特別会員になるのに1億円くらい使ったから残りは9億円くらいはある。
残りの人生60年としても、毎年1500万円は使えるわけで。無理して働く必要もないのだ。
高い車やブランド品を買うとかの趣味もないし、酒は飲まないから酒池肉林の豪遊をしたりとかもしないし。
で、俺の1日のルーティンは午前中は筋トレをして午後はプラ電に行って散歩をしたりする。そして、夜は読書やテレビを見たりネットをして早めに寝るのだ。
そう言えば、佐藤さんの年収とかいくらなのだろうか。
佐藤さんはプラ電に3人しかいない特級魔法使いらしい。
所属する魔法使いは235人らしいから、そのうちの3人ならかなりのエリートのはず。
「私の年収は1000万円です」
「え? 特級魔法使いなのに安くない?」
1億円くらいかと思ったけど。
「そこは普通に会社員なので」
「なら、退職して別の仕事をしたりとか」
特級魔法使いの能力を使えばいくらでも稼げそうだけど。
「退職したりプラ電に対する裏切り行為とかをすると、会長に殺されますので」
「ええっ!?」
「光の速度より速く動ける会長には、特級魔法使いが100人でも勝てないかと」
「拘束魔法とか効かないの?」
「光速を超えるので拘束できません」
「なるほど」
「それに、手取りが年1000万円なので。他に年間1000万円まで好きに使って良いカードを支給されてます」
「へえー」
それなら実質、年収3000万円クラスだよな。
「それに、魔法学園の学費や寮費など会社が出してくれましたので」
「へえー、ちなみに学費とかいくらなの?」
「教えてはもらってませんが、基本的に王族や貴族の子息しか入れない学園なので」
「なるほど」
それはかなりの学費とかだろうな。高額な寄付金とか必要だろうし。
「そうだ、他の2人の特級魔法使いも特別会員の専属秘書をしているの?」
「してません」
「そっか。3人は仲はいいの? 定期的に遊んだり」
「いえ、他の2人と仲は良くないので」
「そうなの?」
「はい。1人は私をライバル視して、1人は私と性的な事をしたいようで嫌なのです」
「はあ」
と、すると、男の魔法使いもいるのか。いや、女性が好きな女性もいるけど。
佐藤さんが作ってくれた昼食を食べて、プラ電へ行くことにした。
俺の住む東京にプラ電の店舗は30ある。1ヶ月は東京プラ電巡りだな。
佐藤さんが運転する乗用車でプラ電へ。
「さっきから煽られてますね」
「そうなの?」
「はい。後ろの車の運転手から悪意を感じますので」
「へえー」
赤信号で止まると、後ろの車から男が降りてきた。
何か叫んでいるようだけど、何も聞こえない。
「ちんたら走ってんじゃねえぞ! とか叫んでます」
「なるほど。この車、凄く防音だよね」
「はい。不快な音や振動とか魔法で消してますので」
「あ、なるほど。佐藤さん、ちんたら走ってるの?」
「法定速度のプラスマイナス1キロを守っているだけですが」
「じゃあ、完全に言いがかりだね」
「そうですね。ちょっと行ってきます」
「え?」
佐藤さんが魔法で何かをしたのか、絡んできた男は歩いてどこかへ行ってしまった。
後ろの車は佐藤さんが空間収納したようだ。
いいの?
運転席に戻ってきた佐藤さん。
「周囲に認識阻害魔法を使っていますので、騒ぎになることもありません」
「なるほど」
認識阻害魔法か。便利だな。
しかし、それなら高級車やブランド品とか取り放題なのでは。なんなら銀行強盗も。
「そんな悪いことはできません」
「できません?」
「したくても会長が怖いので、しないと思います」
「え?」
「私をライバル視している特級魔法使いの1人が、社員や魔法使いたちの監視役みたいなことをしているので、悪いことをすると会長にチクられます」
「へえー」
「あの女、会長の犬ですよね」
「……はあ」
いや、その人、俺は知らないけど。
それに、社員の悪事を上司に報告するのは良いことなのでは。
「悪いことをした社員や魔法使いは、事故に見せかけて会長に殺されたりします」
「……なるほど」
しますと言うことは、過去に殺された魔法使いがいるってことか。
流石は異世界で勇者だった会長。人殺しも平気なのか。
しかし、そんな企業秘密みたいなことを俺に話して大丈夫なのだろうか。
いや、他人に話しても信じてもらえないか。
「会長は過去にも行けるのです」
「え?」
「光よりも速く動くと時間を遡り、過去の出来事を変えたりとかできるようですね」
「ええっ!? なら、この世の全ての不幸な事故とか無かったことに」
「いえ、それは無理かと」
「そうなの?」
「はい。過去に遡れる時間は1分くらいらしいですから」
「60秒?」
「はい」
そうか。そのくらいだと世界の全ての事故を無かったことにするとか無理だな。
「それに、会長は基本的に社員や魔法使いの不祥事を無かったことにするだけにしているそうです」
「なるほど」
もしも、プラ電の社員や魔法使いが殺人とかしたら、それを無かったことにするとかなのか。
それでも凄くすごいけど。
そんなすごい元勇者のプラ電会長は、どうして家電量販店なんて経営しているのだろうか。
「会長は家電がとてもお好きらしいです」
「なるほど」
プラ電会長、家電が好きなのか。俺と一緒だな。
しかし、家電が好きと言っても俺は家電量販店なんて経営したいと思わないけど。
何千人とかの社員の生活や人生に責任を持つとか俺には無理だな。
俺は勇者でも魔法使いでもない凡人だし。
「いえ、プラ電特別会員に選ばれた加藤様は凡人ではないと思います」
「そう?」
「はい」
いや、その選ばれた基準がわからないけどね。
「最寄りの警察署によりたいのですが」
「うん、いいけど」
何か用かな。
警察署の駐車場に車を停めた佐藤さん。
車から降りて、空間収納した煽り運転の車を取り出して駐車場に置いた。
運転席に戻ってきた佐藤さん。
「お待たせいたしました」
「いや、うん」
発進する。
煽り運転の車を警察署に置きにきたのか。なるほどね。
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