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なしくずし的に俺は佐藤さんと親公認の婚約状態みたいになってしまった。 親公認と言っても俺の両親だけだけど。 佐藤さんの親御さんに御挨拶しないと駄目だよな。 やばい、すごく緊張してきた。 「俺の娘に手を出したな!」 「あ、いえ、手を出されたのは俺のほうと言うか」 「言い訳するな!」 みたいに殴られたりするのだろうか。 俺の両親も佐藤さんに「佐藤さんの親御さんに御挨拶しないと」とか言ってる。 「私は両親と訳あって距離をとっており、成人してからは会っていません」 「そうなの? その訳って聞いていいかしら」 佐藤さんのプライベートに踏み込む母さん。 「母さん、その訳は俺が知ってるからいいよ」 「でもね」 「氷狩さん、いいんです」 身の上を俺の両親に話す佐藤さん。 「そう、お人好しで他人のために借金したりする父親と、それに文句を言いながら離婚しない母親なのね」 「はい」 「みるくさんも大変なのね。あの、こんなこと言いたくないんだけど」 母さんは、佐藤さんに遠回しに俺の金が目当てなのではみたいなことを聞いた。 まあ、普通はそう思うよな。 佐藤さんは俺の両親に通帳を見せた。 「私が親の借金を払ったり、親の面倒を見ることはありません。私の年収は1000万円で、貯金が3000万円はあります。それに、私の身元保証人は会長がしてくれます」 「会長って、プラス家電の会長さん?」 「はい」 「そうよね、プラ電の社外取締役担当秘書ができるくらいしっかりしている佐藤さんだし、プラ電の会長さんが身元保証人なら安心ね、あなた」 「そうだな」 「よろしければ、御都合のよい日に会長と一緒に御挨拶へ参ります」 「我が家に?」 「はい」 「プラ電の会長さんと?」 「はい」 「あら、どうしましょう」 あわあわする母さん。 「落ち着け」 「そ、そうね」 父親が休みの日に両親の家にプラ電会長と佐藤さんが挨拶に行くことになった。 本物の会長じゃないよな? 影武者ゴーレム会長だよな。 父さんたちは歩いて俺のマンションまで来たらしい。 まあ、車で来たなら駐車スペースには佐藤さんの車が停まっていたし。 「お送りいたします」 佐藤さんの運転で両親を両親が住むマンションへ送ることに。 佐藤さんの車は国産だけど2000万円くらいする乗用車らしい。 後部座席に座った両親は「こんな高級車に乗るのは初めてだ」とか言ってるし。 親が乗ってる車は500万円くらいの国産車だし。 3000万円くらいの外車を俺が買ってもいいと言ったけど、上司より明らかに高い車に乗っていると何かと問題になるらしい。 「この車、佐藤さんのなの?」 「はい」 「凄いのね」 「会長からのプレゼントです」 「あら、そうなのね」 影武者ゴーレム会長と俺の両親が会う日がやってきた。 父親がカミングアウトした。 「実は、不肖の息子がおりまして」 そう、俺には兄が1人いるのだが、こいつが困った問題児で。 いや、もう成人しているから問題男か。 女と金と酒とかにだらしのない奴なのだ。 俺より5歳は上だから、今は27歳くらいだな。 高校生くらいから何かと問題を起こして親を困らせていた。 小学生だった俺のほうが力は強かったし、家で騒いだりすると俺が殴って黙らしていたけど。 俺が初めて兄を殴った日、俺が寝ている時に兄は俺の首をしめてきたが、俺の首の筋肉は兄の力ではびくともしなかった。 倍返しで殴ってやった。 包丁で刺してきた時もあったが、俺の筋肉は包丁も刺さらなかった。 少しだけ皮膚が切れたくらい。 俺の筋肉、どうなっているのだろうか。 兄が成人してからは、兄が問題を起こしても親は知らん顔をしている。兄が迷惑をかけた相手にも謝らないし金も払わない。 俺を何回も殺そうとした兄も、成人した今では人殺しはしないだろうし、人殺しさえしなければ、まあいいかって感じだな。 騙した女に刺されるのではとか思うし、そうなると刺した女がかわいそうだよなとか思うけど。 まあ、成人した奴がやることに親でも責任はないもんな。法的にはだけど。 そのへんは俺の両親はわりきれるようだ。 兄も俺と同じように普通に育てられたと思うのだけど、友人が悪かったのだろうか。 「今でも何かと問題を起こしているようですが、この1年くらいまったく見ておりません」 そう、1年前くらいまでは俺の目を盗んで親に金を無心とかしていたのだ。 親も渡せる範囲では金をあげていたようだ。 俺が大学へ行かなかったし、少しは余裕があるらしい。 「失礼ですが、生きてはいるのですね」 と、俺の父親に聞く影武者ゴーレム会長。 「それは、おそらく。死んでくれたら……いや、こんなことを思ったら駄目だとは思うのですが」 と、父親。 「そうですね。私は家族がいないので何とも言えませんが」 と、影武者ゴーレム会長。 「あの、そのような兄がいる氷狩ですが」 「心配無用です。氷狩くんと佐藤さんは私が全力でお守りするとお約束します」 「よろしいのですか?」 「お任せください」 「ありがとうございます!」 泣いて喜ぶ俺の両親。 その会長、影武者ゴーレムなんだけど。 佐藤さんと2人きりになると、佐藤さんがカミングアウトした。 「氷狩さんのお兄さん、今頃は海の上ですよ」 「え!? みるくさんが東京湾に沈めたの?」 「違います。海の上です」 「え?」 「1年前からマグロ漁船に乗っています」 「はい?」 「これが証拠です」 佐藤さんは俺の兄がマグロ漁船で働いている映像をスマホで見せてくれた。 「あの兄がマグロ漁船で働いている?」 俺は夢でも見ているのだろうか。 「私が乗せました」 「みるくさんが?」 「はい。催眠魔法を使いましたけど」 「なるほど」 「無理やりではありませんよ。ちゃんと会長の許可を得てますので」 「はあ、そうですか」 催眠魔法を使ったのなら、それは無理やりなのでは。
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