12人が本棚に入れています
本棚に追加
1
プラス家電株式会社
家電量販店大手のうちのひとつだ。
家電量販店の大手と言われるのは日本に4社から5社ほどあるのだが、どの規模から大手なのか知らないけど。
プラス家電(株)は売り上げ額は3番手だけど利益率はトップらしい。
親がいつも家電はプラス家電で購入していたから、成人した俺も家電はプラス家電で購入している。
他の家電販売店にほとんど行ったことがないから、他の家電販売店の雰囲気やサービス内容とかよく知らないけど、プラス家電は雰囲気の良い店舗だと俺は思う。
プラス家電の店舗は入店制限がある。
見た目や服とかで入店禁止になるとかではなく、店員が対応できる人数しか入店させないのだ。
入店を待つ間には、店舗横に併設されているフードコートで格安にて飲食ができる。
コーヒーが50円やケーキが100円とか。
『25番のお客様、お待たせいたしました』
そんな放送が。
俺が持っている入店番号カードが25番。
俺はプラス家電店舗に入店した。
「加藤様、いらっしゃいませ」
深々とお辞儀をされた俺。
俺の名前は加藤だ。
お辞儀したのはこの店舗の店長さん。
お、今日は店長さんが俺の担当なのか。
「店長さん、よろしくお願いします」
「かしこまりました。ところで加藤様」
「はい」
「本日はお時間に余裕はございますか?」
「時間に余裕……」
俺は基本的に暇だ。
だって、俺は無職だから。
店長さん、俺に新商品の説明とか詳しくしてくれるつもりなのか?
「余裕はございますね、なんなら閉店まで」
「ありがとうございます、ではこちらへ」
「はい」
店舗奥へ案内された。
案内された部屋の椅子へ座ると、ノックをして美人店員が入室してきた。
深々とお辞儀をする美人店員さん。
「佐藤です、本日はよろしくお願いいたします」
「加藤です、よろしくお願いします」
美人店員さんが新商品の説明をしてくれるのか。初めて見る店員さんだ。
「今からプラス家電特別会員について御説明させていただきます」
「え?」
プラス家電の特別会員?
累計購入金額で、普通の会員から特別会員になるとかなのか?
俺はかなりの家電をプラス家電から購入している。
しかし、特別会員制度とかプラス家電のホームページにも載ってないはず。そんな噂も見たり聞いたこともない。
で、特別会員になるとどうなるの?
「加藤様は特別会員候補となりました」
「候補に?」
「はい。御説明いたします」
「お願いします」
店長は退室した。
いいのか? 密室に若い男女を2人きりにして。
「加藤様は当社規定をクリアされましたので特別会員候補となりました。おめでとうございます」
「ありがとうございます。あの、その規定って」
「企業秘密です」
「はあ」
「特別会員になるには入会費が1億円、年会費は1000万円となります」
「ふむ」
え? なに、それ。
「どうされます?」
「……えっと」
「特別に低金利で弊社がご融資も可能ですが」
「低金利?」
「特別に年利1%です」
「ふむ」
1億円の1%は100万円だぞ。年間金利が100万円って怖いんだけど。それに、何年ローンなの?
「どうされます?」
「現金で払います」
「ありがとうございます」
「あ、振り込みで」
「はい」
俺は無職だけど10億円くらいは持っている。
去年、スポーツくじで12億円が当選したから。
俺は高卒で働いていたのだが、パワハラ上司に少しだけ手を出してしまい、パワハラ上司が大げさに倒れて怪我をして傷害事件となり、俺が逮捕された前科があるのだ。
パワハラ上司が至近距離で臭い息を吐きながらネチネチ言ってくるので、「ちょっと離れてください」と軽く押したくらいだったのに。
で、会社は懲戒解雇されて無職となったのだけど、スポーツくじで12億円が当選したのだ。
親にマンションを買ってやり、俺もマンションを買ったりしたけど、残りは10億円以上ある。
まあ、大手家電販売会社のプラス家電だ。詐欺みたいなことはしないはず。
それに、特別会員はどんなのか興味があるし。
誓約書を渡された。
・入会費と年会費は必ず支払うこと。
・特別会員のことは他言しないこと。日記や文書にも書き残さないこと。
他にもいろいろと書いてあるけど、基本的に俺が守るのはそれだけらしい。
特別会員の特典としては、佐藤さんが俺の専属となり、いろいろと便宜をはかってくれるそうな。
「あの、もしも他言したりしたら」
「その誓約書は魔法が付与されてますので、サインすると他言したくてもできません」
「え?」
冗談なの? 俺、笑えばいいの?
まあ、いいか。
「なるほど」
俺は誓約書にサインした。
「うわっ!?」
ピカッと誓約書が光り、俺は目を閉じた。
目を開けて目が見えてきた時には誓約書は消えていた。
佐藤さんが何かを光らせて、その間に誓約書を隠したのか?
まあ、いいか。
魔法契約の儀式みたいにしたかったのかも。
佐藤さん、こう見えて中二病なのかもしれない。
そっとしてスルーしておこう。
「ご契約ありがとうございます」
「いえ」
「これより加藤様は特級魔法使いの名にかけて私がお守りいたします」
「えっと……うん、よろしくお願いします」
「はい」
どうしよう。佐藤さんは本当に中二病かも。これ、「やっぱり特別会員になるのやめます」って言っていいのか。
「あの、もしも俺が入会費を払わなかったり、そもそもお金を持ってないとかしたらどうなります?」
「死にますね」
「え?」
「魔法誓約書を甘く見ないほうがよろしいかと」
「……分かりました」
佐藤さん、こう見えて裏稼業の殺し屋とかなの?
最初のコメントを投稿しよう!