秘めた野望

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秘めた野望

『ごめんなさい。今朝バイクに轢かれちゃって骨折して……今日は行けそうにないです。』  はあ?と気づけば口から出ていた。現在12時15分、約束の時間は13時だ。こちとらすでにデート用のワンピースに身を包み、化粧もヘアセットも完璧に準備済みだったのである。普段履かないヒールなんかを履いて、今から出かけるという矢先、相手の男からメッセージが来た。    つまりこれは、ドタキャン。恵菜(えな)は玄関先でしゃがみこみ、ぐったりとうなだれた。隣の姿見には、心底がっかりした顔のやけにめかしこんだ女が映っている。  もう、怒りとかを通り越して呆れていた。なにしろこれは初めてではないのだ。マッチングアプリを始めて5年、話が合う相手を見つけてもいざ会うという段になると、やれ相手がひどい下痢に見舞われただの車のタイヤが側溝にはまっただの不運な事ばかりが起きて結局会えずじまいで終わってしまう。  会いたくないからそれらしい理由をつけたのかとも始めは思ったが、記憶をたどれば自分はあり得ないくらい男と縁がなかった気がする。  職場の男性はなぜか全員既婚者だし、社外で感じの良い男性に食事に誘われても、食事をした数日後に辞令が出て遠方の支社に転勤になったとか、そんなのばっかりだ。毎回どの相手とも何も始まらぬまま駄目になるなんておかしくないだろうか。
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