一日目・探索パート②

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一日目・探索パート②

住宅街では誰一人とも会わず、人や自転車、車をはじめ、鳥や猫など自律した動的なものを見かけなかった。 案外、夕方の住宅街で、ふと一人ぼっちになることはあるが、近所総出で夜逃げしたように人の気配がしないのは、異常というか、ゲームならではというか。 まあ、ふつうに人が出歩いていたら、まごうことなき不審者な俺は即通報されるだろうし。 気配はせずとも、人の生活音や、車、電車の走行音、鳥や虫の鳴き声などは、ごくごくかすかに聞こえる。 無音にちかい静寂のなか、もの寂しげな夕方の住宅街を歩くのはゲームと同じ。 口裂け女と遭遇すると、玉が縮こまるような、おどろおどろしい音楽が流れるとはいえ、昨日の夕方は耳にせず。 夜にむけての探索パートは、ゲームどおりのゴーストタウンのような雰囲気。 これまたゲームのように歩いたり隠れている最中、前ぶれなく、家から笑い声や怒鳴り声が響いてきて、驚かせにかかってくる。 もう五回目くらいのサプライズ「わあああん!わああああん!」という赤ん坊のけたたましい泣きっぷりに跳びすさりながら、とっさに口を手でおさえて。 「あー!なんて意地悪なの!」と誰にともなく涙目で抗議して。 悩まされたのは音関係だけではない。 迷路のような住宅街の構造にも、だ。 蜘蛛の巣のように細い道が入り組んでいること、基本、道の両脇に高い壁がそびえていることは、隠れやすく逃げやすい点ではいい。 が、デメリットもある。 口裂け女が俺を見つけにくいのと同じく、俺も彼女を発見しにくい。 とくに曲がり角は、壁に阻まれて向こうの状況がまるでつかめないのが痛い 壁が低ければ、頭の先や影が見えたりするのに。 ことごとく曲がり角に高い壁がそびえるとなれば、鉢合わせる危険大。 だからといって、道を曲がらないわけにいかず、一か八か跳びだすわけにも。 角の先から、首を伸ばすしかないが、ゲームでさえ勇気がいるところ、現実ではもっと踏んぎりがつかない。 覗いとたん、ばったりもありえる。 息を飲み、震えながら覗けば、視界が涙でぼやけて揺れるは、ゲームほど広い範囲を見れないは。 もたついているうちに、発見確立が高まるから、長くその場にとどまっていられないは。 まあ、足音の代わりに水音が聞こえて、接近を知らせてくれるに、まだ、なんとか。 とはいえ、だ。 水音がしないなら、しないで、口裂け女がひっそり佇んでいる可能性があり、どれだけ道の角を突破しても「もはや、お茶の子さいさいだぜ!」とはならず、毎度毎度、覗くたび、心臓が破裂しそうにばくばく。 すばやく顔を突きだし、ひっこめ、背後チェックも忘れず、それを繰りかえしの作業。 ただ、百パーの安全確保はできないとあって、ある程度できりをつけ、思いきって踏みだす。 意外に、このやり方が功を奏して、入念にクリアリングしながら、すすんだところ、口裂け女と遭遇せず、なんなら視界にも入らなくて。 家をでで、すぐに目撃したきり、あとはさっぱり。 (腕時計を見たら)二十分経過。 さほど走ることなく、このペースで山までの道のり、半分くらいに至れたのは順調。 はずが、冷や汗びっしょり、呼吸がままならず目をくらくら。 パニックで発作を起こしたようなざまで、やや意識を朦朧とさせていた。 ホラー、しかもステレス系のゲームでは、まったく追跡者の気配がしないのも、どえりゃー怖いのだ。 家の近くで、よこぎる口裂け女を目撃したときは、そりゃあ、漏らしそうになったが、おかげで背中が押されたようにも思う。 なにせ、踏みだすのは未知数すぎる世界。 ずっと電柱にしがみついていては、いつまでも世界は濃い霧におおわれたように謎のまま。 都市伝説の洗礼を受けてでも、知識や情報を得ることで、視界が開けて前進ができる。 それに相手が手強い追跡者だからこそ、対決を通して修行をつんでおきたい。 経験値が低いとゲーム的に「詰む」かもしれず、それはそれで不安になるわけ。 なにより位置を把握したり、歩いていく方向が知れれば、適切なルートを決めるなどの対策ができ、遭遇率を低くできる。 ゲームなら、追跡者は規則性のある移動をするものの(フェイントをかける場合もあるが・・・)現実では、そうもいかないだろうから、より難易度は高い。 そもそも、まだ、よく観察していなく、規則性あるなしの確認どころか、移動のし方の癖や特徴もつかめていないし。 まあ、まだ一日目だから・・・。 とにかく、一日目でゲームオーバーになりたくないので、あまり労力や体力をかけず、距離を稼げたことをよしとしたいところ。 もうすこしで住宅街が途切れて、その先には二車線の道が通る、開けた平地が。
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