二日目・調査パート③

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二日目・調査パート③

ユキオがため息を吐いて肩をすくめたように、学歴至上主義は、俺にもぴんとこない。 前世の父も母も、勉強について俺に求めたのは「落第しない程度にね」。 つけ加えて云ったことには「将来の夢を叶えるため必要なら勉強をしたほうがいいし、そういう道を選ぶなら援助はする」と。 母はまだ教育に意欲的なものの、父にいたっては専業主夫だからか「まあ、勉強できなくても、生きる知恵があればいいから」と坊さんのように達観したもの。 勉強について親が放任気味なので、もちろん俺は塾にいっていない。 学校で悪目立ちしないよう、先生に目をつけられないよう、成績や内申など全体的に平均点をとりつつ「勉強できるできないで、人の優劣が決まるものでない」との考えでいた。 が、高級住宅街風から庶民的地区に歩いてきたとき胸がもやもやしたに、塾に通えない子の心境が、すこし分かるような。 まあ、といって、今の俺は勝ち組のほうの立場。 そのくせ、貧富の差を憂うように眉をひそめれば、いやみとらえられるか、怪訝がられるかと思ったのだが。 「でさあ、ほんとに都市伝説のせいで近くの塾がつぶれたんだよ」とさすが三度の飯よりホラーを愛するオタク。 ホラー的なネタにしか目がないらしい。 「・・・なに、どういうこと。 塾にいけない子や親が口裂け女の噂で脅した甲斐あって、生徒がどんどん辞めていって、ついに塾経営がたちゆかなくなったのか?」 「いーや、聞いた話、塾をたたんだ理由は不明で、夜逃げしたみたいだったらしい。 いつものように生徒が行ったら、塾が入っていたビルの階が荒らされたまま、もぬけの殻になっていたって。 まあ、もともと、あやしい塾だったのかも・・・。 にしたって、ビル全体がからっぽ、あたりの店や事務所なんかのテナントもからっぽ。 塾がなくなったとたん、そこらの賑わいが丸ごと失せてしまったていうから、ただことじゃないだろ? 今じゃあ、塾があったあたりゴーストタウンみたいだとか。 そう聞くと・・・なんか、つい想像しちゃうんだよ。 口裂け女が、塾を中心に、周辺で店をやったり、住んでいた人に襲いかかって、すべて食べつくしたんじゃないかって。 塾にいけない子や親の怨念が溢れて、それに衝きつごかされるまま狂乱してさ」 どうも今日の目的地は、ミキオ曰く「口裂け女が壊滅したかもしれない」謎めいた塾らしい。 山道の醜女より、口裂け女との関連が直接的で、近ごろの身近なネタとはいえ、現場に向かうのに気乗りしないのは変わらずというか、今回のほうが重荷というか。 「生きた人間のほうが怖い」とはまさに。 塾に通えず、負け犬の烙印を押された子や親の無念さを痛感させられ、世を憂いてしまいそう。 ひそかにため息を吐く俺の気も知らず「あー、夜に出歩ければなあ」とうっとりとしたように、ほざくミキオ。 「口裂け女の出現率が高いっていう、塾や周辺に調べにいけるのに」 「はあ!?」と甲高く叫ぶも、教室に到着し「ねえ、澤田さん、宿題、教えてくれない」とミキオはそそくさと女子のもとへ。 女子に不慣れな俺は、ミキオと女子がきゃっくあとするのに割ってはいる意気地がなく、予鈴もなったことだし、大人しく自分の席についた。 いくらホラーオタクでも、口裂け女に会いたがるか? まあ、妄想はいくらでも好きにすればいいが、現実に間近で相対した俺からしたら、彼女に恋慕するなんて気がしれない。 裂けた口で笑いかけられ、殺されそうになっても「ああ、なんて素敵・・・」って見惚れられているかっつーの。 そつなくスマートに女子と接するミキオを、そりゃあ「いっそ会わせてやりたいわ!」と憎々しく睨みつけたものだ。
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