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プロローグ①
俺は根っからのバアチャンっ子。
家庭事情もあり、近くに住む婆ちゃんを幼いころから慕っていた。
三人兄弟のうち、俺がとくに懐いて、しょっちゅう家に顔をだしたもので。
自宅では長男として気張っている分、婆ちゃんに甘えたかったのかも。
高校生になっても、その生活ぶりは変わらなかったが、年を重ねて婆ちゃんの体が不自由に。
ある日、足を傷め、それでも毎日通う、墓参りにいこうと。
「あの急な階段はのぼれないって。俺が行ってくるから」と宥めて、しばらくは俺が代わりに。
墓場は婆ちゃんの家から徒歩十分。
山の斜面に多くの墓が並ぶ、古くからある一帯。
山は高くないが、けっこうな傾斜。
とりつけられた階段は古いままで、のぼりにくい上に爺ちゃんが眠る墓はいちばん高いところ。
成長期まっさかりピチピチの男子高生(非運動部)でも上り下りは辛い。
「よく婆ちゃんは毎日毎日、こんな重労働を」と汗だくになって息を切らしつつ、爺ちゃんの墓に到着。
元気な花はそのままに。
バケツと雑巾が置いてあったので、そばの用水路から水をくみ、墓石を拭き拭き。
墓石とあたりをかるく掃除すると、お饅頭をお供えし、線香をあげてお祈り。
後片づけして「またな、爺ちゃん」と墓から背をむけたら、しずみかけの夕陽に染まる墓場と町並が眼下に広がっていた。
夜空になりかけつつ、夕焼けがにじむ、このときの色合いは独特だ。
黒みがかった朱色は、朝焼けとはまたちがって、禍々しく目に写るに、まさに逢魔が時といったところ。
昼から夜に移ろう合間、空の色が混沌とする、この時間帯のほうが暗闇に一人たたずむより心細さを覚えるような。
さっきまで、墓場にちらほらいた人も、どこへやら。
肩を震わせて、腕をさすり「俺もはやく帰ろう」と階段を三、四段とばして走っていく。
のが、いけなかった。
急斜面とあって、階段は小刻みに一段一段、区切られている。
足を乗せる面は狭く、爪先がはみでてしまう。
つまり踏み外しやすく、滑り台のようだから踏んばりにくい。
そう分かっていたはずが、まんまとスッテンコロリン。
焦っては、なおのこと受身がとれず「おわあ!」とうしろに倒れて、階段の角に頭を打ちつけた。
目を回して倒れたまま、急斜面を猛スピードで滑っていき、踊り場へと。
木々に囲まれた踊り場なら、幹に衝突して止まれるだろう。
と思ったのが、木にたどりつくまえに、わきにある小さいお堂が迫って。
滑降で勢いづいたまま、その石の土台に頭を激突。
真っ二つに頭蓋骨が割れるイメージをしたほど、すさまじい衝撃を受けたのもつかの間、意識を失くした。
さすがに頭蓋骨は砕けてないだろうが、出血をしていそう。
即死でなくても、暗くなりつつある墓場に、これから人は訪れないだろうから、重症で放置されたまま、お陀仏になることだろう。
三途の川にむかう途中なのか。
まだ、わずかに頭が働いたものの、すっかり諦めモードで、墓場で頭を血まみれに倒れる自分を想像して、ため息をつくだけ。
「どうせ、生きかえれないなら、待たせるなよ」と苛だってきたころ、真っ暗闇に星のような光が。
米粒くらいだったのが、みるみる放射線状に輝きを広げて、そのうち視界を真っ白に。
眩しくて目を瞑ったものを、体の感覚がもどったのに気づき、ゆっくりと瞼をあげた。
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