一日目・調査パート①

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一日目・調査パート①

ゲーム「口裂け女がさまよう町」の主人公は小学生の女の子。 いかにもな小学生らしく、赤いランドセルを背負い、黒いスカートの制服を着て、黄色い学生帽をかぶり登校をする。 が、交代した主人公の俺といえば、転生するまえから見た目も中身も変わらない男子高生。 さいわい「体は少女、魂は男子高生!」なんて、ややこしいことにならなかったし、といって、高校生が小学生女子のコスプレをする羽目にもならず。 俺にあわせて設定は変わったようで、部屋にあったのは学ランと学校指定のショルダーバック。 身支度を整えて、マップを思いだしながら、ゲームでは小学校があった場所にむかうと、お目見えしたのは高校。 ただし共学だ。 そう、前世の俺が通っていたのは男子校・・・。 そのこともあり、お盛んなお年ごろにして女子に免疫がない。 そもそも家庭にしたって、専業主夫の父に、俺を含め三人兄弟の生活ぶりはむさ苦しく、三日に一回、帰ってくるような母の存在感は、たまに会う親せきレベルだし。 女っ気といえば、婆ちゃんや近所のおばちゃんくらい。 いやべつに、女性不信とか、ゲイとかではないのだ。 身近に親しい女子がいなく、これまで縁がなかったという、たまたま女っ気のない環境に身を置いていたから慣れていないだけ。 まあ、並の男子よりすこし、異性へのがっつきぶりや執着、訳もなくむらむらするような性欲は欠けているのかも。 学校で同性同士、箸がころがっただけで笑いこけるようなのりで大はしゃぎ。 家では、フルチンで弟と鬼ごっこをし、父がお玉をふりあげて追いかける、コントのようなどたばた騒ぎ。 そんな解放的で充足した日常を送るに、女に飢えるなんてことはなく。 女子が身近にいたり、その目があっては言動が制限されるから、逆に女っ気がない今のうちに伸び伸びすごそうと思ったのだが。 こうも突然、男だらけパラダイスな日常が終わりを告げようとは・・・。 「いや、こんなことで挫けてどうする! 女子に腰が引けるからといって、口裂け女攻略をおろそかにするな!」 立ちすくむ己を叱咤して、校門へと踏みこむ。 「口裂け女攻略に邁進せよ!」と強く足踏みしながら、まわりをちらちら見るに、やっぱり肩を縮めてしまうが。 だって、セーラー服だらけだもん。 いやいや、にしたって女子の比率高すぎない? まさか女子高のワケないよな? 初共学に緊張してか、ビビるだけでなく疑心暗鬼に陥ってしまい、泣きそうになったところ「拓馬、おはよう」と背後から。 「拓馬」は前世と同じ名前(名字はゲームどおり)。 そのことは家ですでに確認済みだが、呼ばれたのは初めて。 「そう、俺は拓馬だ」と迷える子羊のような心境でいかたら、胸にじんときて涙をぬぐい「おう!」と溌溂と応じる。 背後にいたのは、学ランにサングラスをかけた小柄な男子。 彼はミキオで、主人公のクラスメイトにして、究極のホラーオタク。 小学生から高校生の俺に主人公が変更になったのに合わせて、すっかり彼も成長したが、トレードマークのサングラスは相かわらず。 サングラスをかけているのは、光に弱い弱視だから。 本人曰く、ほとんど視力がなく、盲目に等しいと。 それでいて、専門の施設でなく、ふつーの公立学校で、ふつーの学生生活を送っている。 ふつーに体育の授業も受け、運動神経抜群に女子をきゃーきゃー湧かせてもいて。 盲目なのになぜ?と首をひねるところ。 視覚でとらえられずとも、オーラのようなものが脳裏に浮かぶらしく、おおよそ把握できているとのこと。 霊能力者のように怪しいというか、現実ばなれしすぎな学生なれど、この世界の元はゲームだから。 ジャンルがホラーだし、学ランサングラスがいても違和感ない世界観がつくりあげられ、今も反映さているからノー問題。 どんな奇抜なキャラだろうと、共学の女子の多さに眩暈がする現状では、親しい男子として接してくれるのは大変、ありがたい。 なんて拝むだけでなく、ゲームの重要人物、たぶんフラグを立てる役目のキャラだから、大切に扱わないと。 ホラーオタクの知識が、きっと今後の行方を左右するはず。 朝礼まで、あまり時間がない。 挨拶が済んだら、すぐに本題へと。 「なあ、口裂け女についてなんだけど・・・。 盛んに噂がされているわりに、口裂け女の仕業か?って疑いたくなるような事故や事件は起こっていないって、昨日(ゲームプレイ中に)云っていただろ。 それって本当? というか、そもそも口裂け女と遭遇したら死ぬってのは確実なのか?」 弟に代わりにプレイしてもらったのはチュートリアル部分まで。 本格的な命懸けの鬼ごっこ部分は未プレイ つまり噂の真偽がどれほどのものなのか、まだ、この目で確かめていないのだ。 ホラーゲームで命を脅かされるのは鉄則なれど、万が一もある。 噂は噂でしかなく、確証を得られないかもしれないが、あらためて詳しく聞いておくのに越したことはないだろう。 ゲームのシステム的に、今、気になることをとっかかりに行動するのがフラグにつながるだろうし。 それにしても、昨日、さんざん口裂け女講義をしてもらったのに、また、しつこく聞きだそうとすれば、面倒臭がったり、怪訝がられたりするところ。 なんのその、生粋のホラーオタクは頬を上気させ、堰を切ったように語りだした。 「まあ、噂で口裂け女は人知れず、相手を攫ったり、体を丸ごと食べるというしね。 現場に一滴の血ものこさないで、被害者はこの世からいなくなるってことでしょ。 そしたら事件や事故として、大々的に公表されないで、失踪者扱いされる。 家族や警察が積極的に情報をださない限り、世の中に知られなくて、それで、ボクらの耳に入らないだけかも。 あ、ただ、歴史的にこの土地は、昔から人の謎の失踪が多かったらしいよ。 古くは江戸時代から、新しくは十年前くらいかな? 十年前のは女子高生。 飼い犬が散歩中に逃げだしたのを、日が落ちたあとも探していたんだって。 目撃者がいうには、ほら、あそこの山に入っていったらしい。 夜遅くなっても帰ってこなかったから、親や近所の人が捜索しだして、警察も手伝ったけど、見つからないまま。 今でも、家族は情報に懸賞金つけて探している。 それくらい子供思いの家庭だったら、彼女が家出するとは考えられない。 生真面目で初心な女の子というから、男とかけおちなんてもってのほか。 そんなふうに原因にまったく見当がつかない人の失踪が、そのころは多かったんだって。 年齢層には偏りがあって、高校生から二十代前半あたり。 小中学生の子供はいなくて。 よく都市伝説や怪談の噂をする子供に被害はなかった。 だから、この時期の失踪は、口裂け女の仕業でないような気もするけど。 とにかく、昔から『夜に一人で出歩くと、神隠しにあう』ってこの土地では畏れられていたみたいだよ。 時代の流れで、神隠しがアップデートされて、脅威の対象が神さまから口裂け女にバトンタッチされたのかもね」 「神隠し」が起源かもしれないのか。 口裂け女の正体を明かすのには、重要な手がかりだ。 「よっしゃ!」と手ごたえを覚え、質問を畳みかけようとしたものの、予鈴が。 落胆を露わにしたせいか、苦笑してミキオは肩を叩き、アドバイスを。 「もし、神隠し云々について詳しく知りたいなら、日本史のエンドー先生に聞いたらいいよ。 先生は学校で働きながら、地域の歴史や伝承を研究しているから」 やはりミキオは、ゲームに欠かせない誘導係なのだろう。 自主的に行動しているように錯覚をさせながら、プレイヤーを筋書きに組みこむための。 そう客観的に考えると、ミキオの親切さをありのままに感謝できなくなるが、とにかく。 日中の調査パートで、朝一番に目的が定められたのだから、よしとしよう。
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