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一日目・調査パート②
一日目の調査パートの目標、というか、フラグを立てる道筋が見えた。
盲目ホラーオタクのミキオから聞きだした情報。
口裂け女の噂が流れるまえから、もともと歴史的に人が失踪しやすい土地柄であり、近ごろでは十年前くらいに目立つ失踪事件が起こったという。
学校にいる間にすべきは、そのことについて詳しく突きつめて調べること。
「それにしても時間がないな」と教室に入ったら本鈴が鳴ったので席について、ため息。
嘆きたくなったのは、これからのことを憂慮してだけではない。
なにせ、俺とミキオ以外、女子が教室を埋めつくしていたから。
校門を通ったあと、ほぼ女子しか目につかなかったが、この具合だと、俺とミキオ以外、学校中、異性で占められているのでは?
前世ではチュートリアル部分しか、プレイを見てなく、そのときは、まだ違和感を持たなかったが・・・。
制作側の意図があっての設定なのか、主人公が男に交代したことの影響なのか、なんなのやら。
とりあえず、女子に不慣れな俺にとっては勘弁してほしいところ。
「ホラーでハーレムでも、うれしくないっつーの」と頭を抱えている暇はないというに。
ゲームはおおまかに、日中、学校にいるときの調査パート、夜に外を出歩く探索パート、二つに分かれている。
学校では、目ぼしい噂を探したり、聞きこみで重要情報を得たり、関連の本や資料を読んだり。
それらから因縁のある場所を絞りだし、夜には、口裂け女を避けつつ、その目的地にむかい、実態を調べる。
小学生女子にして、いや、男子高生の俺でも、探偵の真似事をするのは荷が重く、難しそう。
といって調査しきれず、目的地を決められないまま、探索パートに移ることはないと思う。
ホラーのメイン部分は後半なのだから、前半でゲームオーバーにさせるなんて鬼畜なことはしまい。
と制作側を信じたい。
なので、調査に時間はかからないだろうが、それ以外に探索パートにむけて、二つの準備をしないと。
一つ目は、口裂け女の回避法の開拓。
昨日の夕方、べっこう飴を投げて、口裂け女が追いかけ舐めている間に逃げた。
これは昨日の日中、学校でクラスメイトから聞いた(前世でゲームプレイ中に知った)回避法の一つだ。
そう、方法はいくつもある。
しかも、このゲームにおいては「これは利くけど、これは利かない」と当たり外れはなく、すべて有効。
学校で情報を入手するだけ、回避法のバリエーションが増えるものの、ただし。
使えるのは一回だけ。
使い捨てとなれば、できるだけ多く予備をそろえておきたいところ。
そりゃあ、フラグを立てる作業をする以外は、回避法入手に全時間を費やしたいとはいえ、同じくらい探索パートで欠かせないものがあって。
二つ目は学校で善行をして、チロルチョコをもらうこと。
困っている生徒をはじめ、先生や用務員など、学校にいる人に手を貸すと、お礼としてくれるのがチロルチョコ。
たかが、お菓子と侮るなかれ。
これが夜の探索パートの必須の回復アイテムとなる。
回復アイテム?
口裂け女と遭遇したら(回避法がうまく機能しなかったり、予備がつきた場合)ほぼ死が確定で、回復する機会なんてないのでは?
その疑問については確かにそう。
ただ、べつの事情で、回復することが求められる。
なんたって探索するには足を使うし、場合によって、走ったり跳んだり登ったり這いつくばったりするから。
ゲームでは人の肉体面について現実的な設定がしてあり、ハードな運動をしたり、探索に時間をかけるだけ、気力体力が削られる。
息が乱れ、視界がぼやけ、足の運びがふらふら。
そうやって、へばっているときに、口裂け女に遭遇しようものなら、ほぼゲームオーバー。
疲れて膝を折ったところを狙われては、あまりに、やりきれない。
せめて最後の最後まであがきたいと思うから、回復アイテム、チロルチョコは必要不可欠。
回復の度合いは低いものの、食べたとたん生き生きとなり、瞬発的に動くことができる。
うっかり口裂け女に接近したり、思いがけないピンチに陥ったとき、とにかく、いち早く遠のくため用のアイテムだ。
ほかのタイプの回復アイテムもあるが、おいおい紹介していこう。
こうして説明をすると、日中の調査パートが、いかに忙しく、いかに重大なものなのか、分かってもらえると思う。
小学生の女子より、男子高生の俺は体格がよく、筋力もあるとはいえ、相手は百メートル走世界新記録を大幅更新できる脅威的脚力の持ち主。
体育成績が並くらいで、彼女と鬼ごっこをするのに余裕をこけれるわけなく余分すぎるほどの備えをしなければ。
とりあえず一限目が終わってから、日本史のエンドー先生を探しだし「地域の歴史について、聞きたいことがあるんですか」とお願い。
「じゃあ、放課後に」と約束をとりつけ、それまでに授業以外は、無我夢中で回避法の開拓、チロルチョコ獲得を。
命がかかっているとなれば、女子に話しかけるのも、女性教師の手伝いをするのにも、もじもじしている暇なく。
途中から、共学にして女だらけの異常さが気にならなくなり、ひたすらクエストをこなすように突きすすみ、あっという間に放課後に。
一日目とあって、気負いすぎたか。
回避法の開拓は上出来、チロルチョコを大量ゲットしたとはいえ、けっこう疲れてしまい。
「いや、これからが本番だろ」とチロルチョコを一つ、口に放って、気を取りなおしてから、エンドー先生が待つ歴史の準備室へとむかった。
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