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「どうした」  ひとりで受付に赴くと、掘さんが奥からこちらを見た。  ストーブの湯でほうじ茶を入れ、干し柿を食べている。 「ここからスペインって、行けるんですか」 「しらん。」  言いながら、どこからか出したもうひとつの茶碗に私の分の茶を入れていく。私は勧められるままにそれをすすった。 「ここはな、あんたの知ってるような場所じゃない。あんたが覚えているだろう地図とは、まったく違う形と繋がり方をしている。まあ繋がっていないわけじゃないがな、」 「それじゃあ、」 「だがオレはあの兄ちゃんの分の金は積まれていない。探す道理もない。ここに置いている間はあんたに積まれた金を折半していると思え」  冷たいあしらいに、私はどこか健治先輩を思い出していた。 「それなら私の生前の貯金を崩してください。少しは足しになるはずです」 「しらん。死んだ人間からは金をとらん」 「じゃあ誰が私に金を出したんですか。生きてる人間で私に金を出そうと思う人間なんて、心当たりがない」  しらん、と返されると思ったが、掘さんは黙って茶をすすり、私を見た。 「見たいか」 「え、」 「誰がお前のために金を積んだのか、見たいか」  掘さんはそう言うと柱時計をちらりと見た。  柱時計の針は正午を指していた。昨日も今日も、いつ見ても正午で、動いているのは振り子ばかりだった。 「それぐらいの金はある。外に出ろ。お前犬は平気か?」
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