私の神様

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 私の神様は、人の感情を食べる。  喜び・怒り・哀しみ・楽しみ……それ以外のその他諸々。  神様は他の人には見えないようで、フィッシュテールドレスのような衣装に身を包み、スラリと伸びた両足で地面を踏み締めることなく、ふわふわと宙に浮いたまま移動する。  そして音も気配もなく、目当ての人に近づいたら感情を抜き取る。  初めて見た時は驚いた。  何せ神様は羽衣を纏わせたその細い隻腕を心臓の辺りに突き刺して、そこからビー玉のようなものを取り出したから。  最初こそ感情を抜き取られた人が倒れるのではないかとハラハラしたが、何事もなかったように去っていく姿を幾らか見送っていれば慣れた。  神様が食べる感情の飴玉(便宜上私がそう呼んでいるだけで、神様は一度も飴玉とは言っていないけど)の色は色彩豊かで、気持ちによって変化するらしいが詳細はわからない。  何となく喜びは黄色、怒りは赤色、哀しみは青色、楽しみは橙色のように思えるが、当然これは私の推測の域を出ない。  というのも、私には神様が見えるけれど、言葉を交わすことは出来ないからだ。  何度か話しかけたことがあるけれど、いずれも思わしい反応は返ってこなかった。  だから神様が何故人の感情を食べるのか、どうして私の側にいるのか、その理由は全くわからない。 「ねぇ、神様」  私が呼びかけても滅多に神様は反応しない。  まるでこちらの声が聞こえていないかのようだ。  しかし私のことが見えてないわけではないようで、何度か視線が絡んだことがある。  その黄金と白銀の瞳が私を見るたびに、私の心臓は不自然に脈を打った。  理由はよく分からないけれど、恋ではないことは確かだ。  ときめきなんて甘い感覚はない。鼻先を特急列車が通過したような錯覚、といえば理解してもらえるだろうか。  そんな神様だが一度だけ私に微笑みかけてくれたことがある。でも、何故そうしてくれたのか理由はわからない。  その時私は泣いていたから、慰めようとしてくれたのかもしれないけれどやはり確信はない。
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