私を、探して

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「おお、確かにそうだ。涼介の言う通り。それは謎だ。じいちゃんが残した古文書に匹敵するほどの謎、ミステリーだ」  健斗がどこまで真剣に考えているのか分からない。おちゃらけモードに入ったのは元気になった証拠でもある。  その時、病室のドアがノックされた。 「入るわよ」  聞き覚えのある声だった。入って来たのは、健斗の母親だった。  ドアが開くなり僕は、とっさに頭を下げた。黙って鳥居を抜けたことを快く思っていないだろうと、想像したからだ。 「すみませんでした。山に登るのに賛同したばかりに、こんなことに」  予想に反し、健斗の母親は苦笑いを浮かべた。怒っているようには見えなかった。 「どうせ、健斗が強引に誘ったんでしょ。二人とも無事で本当に良かった。あのまま遭難してたら命に関わってたわよ。もう一日、入院して検査だって。問題なければ明日、退院」  まだ家に帰れないのか……と思いつつ、僕はこのタイミングで聞くべきだと思った。 「あの……」  救出に来た経緯についてだ。 「何かしら?」  健斗の母親の視線が、少し鋭くなった気がした。 「いえ、何でもありません」  僕は切り出せず、語尾を濁して視線をそらした。 「今は体力回復に努めなさい。詳しい話はそれから」  健斗の母親は、聞きたい内容を察したのかもしれない。でも、今の最優先はそれではないということか。 「はーい、お母さま、そうします」  反省している様子のない健斗の頭を軽く小突いて、母親は病室を出て行った。 「怒られなくてよかったな。にしても、何が『はーい、お母さま』だよ。相変わらずのお調子者だな」 「まあ、そう言うなって。でも、ほとぼりが冷めたら、絶対に怒られる。ああーー困った」  言ってから健斗は、髪の毛を両手でくしゃくしゃにした。救出されて直ぐだから、優しくしてくれているのだ。 「退院したら、まずは大目玉だな」 「間違いなく」 「なあ、健斗……これは、提案なんだけどさ」  僕は、ベッドに腰を降ろして健斗を見つめた。 「古文書のこと、両親や先生には黙っておかないか?」 「こんな自体になってしまったのにか?」 「信じてもらえないって。それに、お前の両親、伝説のこと知らないんだろ。もう、あそこには何もない。今さら知らなくたっていいじゃないか」 「うーん、確かに。俺たちだけの秘密……それも悪くない!」  僕はそんな理由で秘密にしておきたいと思ったのではない。しかし、健斗が妙に納得しているので、それで良いことにした。
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