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* * *
「あー、疲れた」
健斗の部屋だが、僕は床に大の字に寝転がった。
「反省会って、何についてだ? もう、全て終わっただろ」
「古文書もノートもまだ何冊かある。じっくり読んでみるつもりだ」
健斗は、本棚からそれらを取り出して、丸テーブルの上に置いた。
「僕は結構。何かわかったら教えてくれ」
洞窟での恐怖体験を思い出すと、墨で描かれた巫女の絵を見る気にはなれない。
健斗が古文書を開いたタイミングで、部屋がノックされた。
「入るぞー」
健斗の父親が、お盆にお茶とどら焼きを乗せて持って来てくれた。
「まったく、お前たちは無茶をする。あわや命がなかったぞ」
怒りを通り越して、飽きれたような口調だ。
なぜ、あの場所がわかったのか? 聞くなら今しかない。とっさにそう思った。
鳥居の扉は、確かに閉めた。山に入った痕跡は残っていないはずだった。
「ねえ、健斗のお父さん。教えて欲しいことがあるのですが」
「何だい?」
健斗の父親は、盆をテーブルに置きながら僕の方を見た。
「なぜ、僕たちがあそこにいると分かったんです?」
「ああ……それね。教えてもらったからだ」
「教えてもらった? 誰にですか?」
「あの晩、玄関を激しく叩く音が聞こえてね。扉を開けると女の人が立っていた。寒いのに薄着で肌は異様に白くて……そして、えらく美人だった」
僕らは思わず、顔を見合わせた。
「その女の人は、何て言ったんですか?」
「鳥居の先を指さして『りょうすけ、やまのうえ』って。お前たちの帰りが遅いので、探し回ったあと、一度、家に戻ったときだった」
「そのあと、女の人は?」
どら焼きを手に取った健斗が、会話に入ってくる。
「母さんを呼びに台所まで行って、玄関に戻ったら居なくなっていた。登山客かな? お前たち、山で会わなかったか?」
健斗は首を横に振り、僕は曖昧な返事をした。
「お礼を言いたいところだけれど、どこの誰か分からないしな」
父親はそう言い残して、部屋を出て行った。
「おい、その女って」
「洞窟にいた女だろう……名前、聞かれた」
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