私を、探して

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* * * 「涼介、放課後、暇か?」  登校するなり、僕の机に走り寄ってきたのは友人の健斗だった。僕は、ランドセルから教科書を取り出す手を止め、健斗を見上げた。 「俺んちに来ないか? すごい発見をしたんだ」  健斗は、お調子者で喜怒哀楽がはっきりしているタイプだが、鼻息が荒いところをみると、本当に重大なことを伝えたいのだろう。 「凄いって、何が? 前も同じようなこと言ってたけど、そんなに凄くなかったじゃないか」 「今度は本物。ここでは言えないんだけどさ……」  顔を寄せてきた健斗が、小声で言った。  僕が両親の都合でこの町に引っ越してきたのは、小学六年生の四月。それから、八か月が経過していた。東京に住んでいた僕は、夏は涼しく、冬は寒い田舎の気候にまだ慣れていなかった。 「ちょっとでいいから、教えろよ」 「放課後のお楽しみ。授業が終わったら校門で待ち合せな!」  言い放つと、僕の返事を待つことなく、健斗は自分の席へと走って行った。  まったく、忙しいやつだ。  小さく溜息をつきながら教科書を整えた。  都会から引っ越してきた僕には、友人ができなかった。地元で生まれて地元で育った人ばかり。みんな、幼稚園から一緒に過ごしている。親同士も仲がいい。  のけ者にする意図がなくても、どうしても僕は孤立してしまった。  転校してきた当初は、都会の話を聞こうと近寄ってくる生徒もいた。でも、僕が話す内容が嫌味に聞こえたようで次第に離れていった。  しかし、健斗だけは違い、気さくに話しかけてくれた。  自慢話と思っている様子はなく「すげー、行ってみてー」とか「ディズニーランド、案内してくれよ」と屈託なく会話をしてくれた。健斗のおかげで、次第にクラスに馴染むことができた。  ひとまず、家にメッセージを入れておくか。  東京ではパート勤めだった母親は、専業主婦をしていた。最近「仕事を探そうかしら」と言い始めている。  それにしても、あんなに興奮気味に語るほどの内容とは何だろう?  僕は気になってしまい、授業は上の空だった。  まあ、放課後になれば分かる。「遅くならないようにね」との母親のメッセージを確認してからスマートフォンをランドセルに入れた。
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