私を、探して

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* * *  放課後にサッカーをしようと誘われたが、断って健斗の家へ向かった。  学校から徒歩で十分ほどの距離。僕の自宅とは反対方向だが、歩いて帰れる距離である。  道すがら僕は、健斗から内容を聞き出そうとしたが口を割らない。 「やっぱ、お前の家、立派だな」 「だいぶ、古いけどな」  二階建ての日本家屋だ。  重厚な瓦で覆われており家屋の前には、広々とした庭がある。手入れの行き届いた庭には花々が植えられており、立派な鯉が泳ぐ池まであった。  玄関で健斗の母親が迎えてくれた。 「涼介君ね。健斗がお友達を連れてくるなんて珍しい。ゆっくりしていってね」  あらかじめ、予告していたのだろう。母親は「お茶菓子、持って行くわね」と言い残して、廊下の奧へ消えていった。  靴を脱いで上がる。廊下は板張りでミシミシと音を立てた。建てられてから、相当な年月が経っているようだ。 「俺の部屋、二階だから」  ドタドタと大きな足音を立てる健斗のあとを歩きながら、通りすがりにある部屋を観察する。和室ばかりだ。どの部屋も家具は最小限で、空間の美しさが感じられる造りだった。  洋風の一軒家に住む僕には、本物の障子や襖が新鮮に感じられた。 「お前の部屋、屋敷の印象とはだいぶ違うな」  健斗の部屋はフローリングの洋室だった。ベッドに、薄水色のカーテン。勉強机には教科書が乱雑に散っていた。 「改装したんだ。二階はほぼ洋室だよ。まあ、座ってくれ」  十畳ほどもある部屋の中央に絨毯が敷かれており、丸テーブルが置かれていた。  僕が腰をおろすと、待ちかねた様子で何かをテーブルに置いた。 「古い本と、ノートに見えるが?」  一冊は麻紐で閉じられた古い本。紙は和紙に見えた。もう一冊は、文房具屋で買えるノートだった。 「じいちゃんの部屋から拝借した。去年、亡くなったんだけど」  健斗の祖父は、趣味で歴史の研究をしていたそうだ。この地域は研究対象に困らなかったらしい。そんな祖父が、昨年、亡くなった。心臓発作だったそうだ。 「じいちゃんの話を聞くのが好きだったんで、だいぶ落ち込んだけどな」  僕の祖父母は健在だ。身近な人の死を経験していないので、健斗の心中は推察するほかない。 「でも、じいちゃんが、これを残してくれた」  健斗は、古い本とノートを指さした。 「そろそろ、教えてくれよ」  そう尋ねたところで、健斗の母親が茶菓子を運んで来た。なかなか、本題に到達しない。
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