私を、探して

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「では、始めよう。こっちが、古文書。で、こっちが、じいちゃんの研究ノート」 「この家には、古文書がいっぱいあるのか?」 「裏に蔵が見えただろう。あそこに、色々と眠っている。鍵が掛かってて勝手には入れないけど」 「じゃあ、どうやって手にいれたんだ?」 「じいちゃんの部屋から拝借した。研究のために蔵から持ち出してたんだろう」  僕がノートに手を伸ばすと、健斗はサッと持ち上げた。 「早く言えよ、帰るぞ」 「まあ、そう言うなよ。お前『雪室(ゆきむろ)』って知ってるか?」  ノートをテーブルに置いた健斗は、前のめりになって顔を近づけてきた。 「ゆきむろ?」 「まだ冷蔵技術が発達していなかったころに使われていたものだよ」 「どこかで聞いたことがある。冬に雪を貯めておいて……とかそんなやつだろ」  健斗は「その通り」と言って、指をパチンと鳴らした。 「昔、夏に冷たいものを食べたいという、わがままな将軍がいて、冬に降った雪を涼しい所に蓄積しておいて、夏にかき氷にして食べたんだ。食物の保存にも使っていた」 「夏になったら、あっという間に溶けるだろ?」 「雪を山のように積み上げておくのさ。溶けても夏に残っているように」  健斗はノートをペラペラとめくって、白紙のページを開いた。そこに、ボールペンで三角の山を書いた。 「その雪室がその古文書と関係あるのか?」  健斗は大きく首を立てに振った。 「回りくどいなあ。本当に帰るぞ」  膝を立て立ち上がろうとした僕を、健斗がなだめた。 「結論から言う。今晩、お前と俺は、ある物を探しに行く」 「ある物? 徳川の埋蔵金か?」 「違う、違う。死体だよ」 「死体だって!?」  思わず、悲鳴のような声を上げてしまった。小学生が探していいのは、植物とか、昆虫くらいだ。それが、死体とは。 「警察に任せることだぞ」  僕は声のトーンを落とした。健斗は、両親に言っていないだろう。 「大丈夫、もう時効」 「昔の殺人事件で死体が見つかってないとか? まさか、お前のじいちゃんが殺人犯とかいうオチじゃないだろうな?」  僕は、背筋に冷たいものが走り、お尻を後ろにずらした。  殺人の告白がノートに綴られているのか? 健斗は殺人犯の孫ということになる。では、古文書は何だろう? 「勝手に推理するな。とっくに時効だと言っただろ。死んだのは二百年も前の話だ」  僕は「二百年!」と裏声で叫んでしまった。 「二百年前に亡くなった誰かの死体を探しに行く……そういうことか?」  健斗は親指を立てて、その通りだと示した。  博物館でミイラを見たことがある。大昔に亡くなったミイラには、それほど恐ろしさを感じなかった。二百年前の死体はどうなのだろうか? 「その男の死体は、どこにあるんだ?」 「男なんて言ってないぞ」 「じゃあ……女性なのか?」 「しかも、若くて、めちゃくちゃ美人だったそうだよ」  美しいお姉さんは好きだが、死体となるとその限りではない。 「古文書に場所が書かれているってことか」 「ご名答!」  健斗は、両手の指をパチンと鳴らした。相変わらず調子のいいやつだ。 「死体探しなんて、スタンドバイミーみたいだな」  両親がそんな映画を見ていたことを思い出した。 「子供たちが連れだって、誰かの死体を探しに行く……そんな映画だったような気がする」 「それと同じだ。見てないけど。で、今日が決行日」 「急だな。明日は土曜だから学校は休みなので、行きやすいけど。明日を準備に当てて、日曜日に行けばいいんじゃないか?」 「今日じゃないとダメなの。だって、今日がちょうど二百年目だから」  健斗はノートの最初のページを開いた。文字がびっしりと書かれている。とても達筆だ。 「じいちゃんは、古文書を読み解いてノートに書き記していたんだ。日付も割り出していた。自分で実行しようとしていたらしい」 「死体探しをか?」 「厳密に言うと『死体の開放』の方が正しい」 「順を追って話す必要があるな。なぜ、今日じゃないといけないのか」  別のページを開いて、僕の前へ突き出した。手書きの地図。家と鳥居と山。 「庭に赤い鳥居があったよな。このマークがそれか。健斗は神社の家系なのか」
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