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「そんなところだ。代々、神社を守っているらしい。で、矢印が山の方へ続いているだろ。その先に×が書かれている。そこに、死体がある」
健斗は地図を指で辿りながら説明を続けた。
「涼介、鳥居の先を見たか?」
「うろ覚えだけれど、柵で塞がれていたような」
「正解。鳥居の先は木製の扉がある。理由を聞いても誰も教えてくれなかった。多分、先に進めないように封印してるんだ」
「健斗は、行ったことはないんだな」
「絶対に入るなって、小さい頃から言われてきた」
「でも、理由があって、禁止されてんだろ」
「ノートによると、両親は理由は知らないみたい。じいちゃんは、自分の代で終わらせるつもりで、伝えていなかったんだ」
「終わらせる? 何を?」
「呪いをだよ」
健斗の顔から、笑みが完全に消えていた。健斗が冗談で言っているのではないことが分かった。見たことがない神妙な表情だった。
「じいちゃんは、八十歳を超えていたけど、毎日トレーニングを欠かさなかった。二時間の散歩に筋トレ。一人で遂げるための準備だったんだよ」
健斗は、唇を噛みしめ眉をひそめた。悔しさが色濃く表れた表情に思えた。ちゃんと話してくれたら、自分も手伝ったのに……そう思っているのだろうか。
「お前のじいちゃんがやり遂げようとしていたことを、俺たちが引き継ぐ……そういうことだな」
学校で聞いていたら、ただの作り話だと思っただろう。だから、健斗は俺を家に呼んだのだ。真剣な表情を見ていると、嘘には思えなかった。
「死体の開放って言ってたよな。誰の死体なんだ?」
健斗は古文書のあるページを開いて、僕の前へ置いた。墨で女性の姿が描かれていた。
「立派な着物の女性。誰だ?」
「巫女だよ。神社に遣える巫女さん」
「巫女さんって、正月に神社で御札やお守りを売っている、あの人たちか?」
神妙な表情を崩し、健斗はふーと息を吐いた。
「何も知らないんだな。普通はそうか。昔は、巫女は神事において重要な役割を果たしていた。特にこの巫女は、強い力を持っていたらしい」
「念力で物を動かすとか?」
「未来予知だ。心を読むこともできたらしい。俺は古い文字は読めないので、じいちゃんのノートによると、だけど」
「未来……予知だって」
信じがたい話になってきた。しかし、古文書に描かれた、物憂げな表情を浮かべる女性の姿を見ていると、ありそうな気がしてくる。
「巫女は、宮司の娘だった」
「じゃあ、お前の祖先ってわけか」
「そういうことになるな」
健斗は、古文書を手に取って別のページを開いた。そこには、偉そうなおっさんの絵が描かれていた。
「地域を治めていた有力者だ。巫女の力を大変に買っていたそうだ」
「予知能力を、だな」
健斗は小さくうなづく。
「最初は、天候を占わせていたみたい。しかし、そのうち、彼女の能力を政治の道具に使い始めた。大名の心を読ませたり、自分を快く思ってない人間を探させたりだ」
「可哀そうに。その巫女さんは、そんなこと、したくなかっただろうに」
「有力者からすれば、神社の一つや二つ、潰すのはたやすい。宮司は仕方なく、黙認していたみたいだ」
先祖がそんな扱いをされていたと知った健斗は、複雑な心境だろう。
「そんな役に立つ巫女が、有力者に殺されたのか?」
巫女に強い力があるのは理解したが、死体との繋がりが分からない。
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