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懐中電灯で照らしてみると、洞窟は見渡せる程度の広さしかなかった。自然に出来たものではなく、人工的に掘られたように見えた。
健斗は、作業する際に物置として使われていたのだろうと言った。
洞窟の奧へ移動し、並んで座る。
体を寄せあって毛布に包まった。気恥ずかしさはあったが、気温の低さを考えるとそんなことを言っていられなかった。
僕は携帯用ランプに火をつけた。オレンジ色の明かりが心を落ち着かせてくれた。
「マシュマロでも、焼くか」
「いいね」
僕はマシュマロを竹串に刺してあぶった。表面が焦げていい香りがしてきた。何も食べていなかったので、あっという間に一袋を平らげてしまった。
震える手で腕時計のボタンを押すと、ぼんやりと表示板に時間が浮かび上がる。
「朝になったら移動しよう。十時間ほどの辛抱、大丈夫だ」
健斗に向かってだけでなく、自分自身にも言い聞かせていた。
ランプは、ほどなく消えてしまった。携帯用なので燃料は少ない。懐中電灯の電池も温存するために消すことにした。洞窟内は真の暗闇に覆われた。
父さんも、母さんも心配しているだろう。もしかしたら、探し回っているかもしれない。しかし、ここまで探しに来ることはない。誰にも内緒で来たのだから。
書置きをすればよかったと後悔した。予定ではとっくに下山して、夜ご飯を食べ、暖かい風呂に入って、ふかふかの布団で眠っているころだ。
「疲れた。眠くなってきた……」
健斗は、言い終わる前に寝息をたて始めた。
「おい、健斗……」
毛布の中で、体を揺らしてみるが目を覚まさない。モゴモゴと聞き取れない言葉で寝言を口にしていた。
おめでたい奴。この状況で眠れるなんて。
――寝るな! 死んでしまうぞ。
テレビドラマで、仲間にそう声をかけるシーンを見た気がする……あれって本当なのだろうか?
神経が冴えわたり、眠気を感じなかった。
――石棺を開けた直後、天気予報に反して雪が振り始めた。
自分たちがとった行動と、雪に関係があるような気がしてならなかった。空っぽの石室には、本当に何もいなかったのだろうか?
あのつむじ風は……?
石の棺の中には二百年もの間、巫女の遺体が眠っていたはず。想像しただけで全身が震えた。
色々と想像しているうちに、僕も眠気に抗うことができなくなっていた。
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