失恋同盟

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 自分にかけられた言葉だとは思わなかった。だから振り返らず、花にかかった雪を払った。手袋をしていなかったので、手が真っ赤になり、指先が痺れるように寒さを訴えた。それでも私は、構わず手を動かした。 「何してんすか?」  繰り返された言葉は、どうやら私に向けたものらしい。私はしゃがんだまま、傘越しに振り返った。斜め後ろに、男の子が立っていた。黒いスラックスに灰色のピーコート、えんじのマフラー。さしているのは透明なビニール傘。 「別に何も」  私はまた花壇に向き直る。さっき顔を出した小さな花は、またうっすら透明な雪を頭に載せていた。私はそれを親指と人差し指でつまんで、払った。 「その花、好きなんすか?」  男の子は私の隣にしゃがんで視線を合わせた。後ろから見たら、傘が二つ並んで綺麗かもしれない、とふと思う。 「別に好きじゃないよ。だって名前も知らないもん」 「なのに、わざわざ素手で雪、払ってんすか?」 「いいでしょ。私の勝手。大人にはねえ、子供には分からない事情ってもんがあんの」 「そんなババ臭いこと、言わない方が良いっすよ」  男の子は、私を見てにっこりと笑った。 「どうしたんすか? 辛いことあったんすか?」 「ババアの悩みなんて、子供には関係ないでしょう」  本当はもう、目の前の小さな花になんて興味はなかった。今日は一日雪予報だし、私が今払ったところで、雪は容赦なく花壇を埋め尽くす。でも、今更手を止めるのも癪で、私は花壇の雪を手のひらですくって、脇に避けた。
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