失恋同盟

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 最初はほとんど聞こえなかった。  少しずつ、しゅ、と鳴るようになり、続いてすく、と鳴るようになり、さく、と固い音になり、今はもうざく、ざく、と確かな手応え、いや、と共に心地良い音がはっきりと聞こえてくる。  数年ぶりに積もると数日前から大騒ぎした雪は、公共交通機関を計画運休に追い込み、高速道路を通行止めにし、私の働く派遣先に臨時休業の決断をさせた。  はあ、と息を吐いてみる。  触れそうなくらい確かに白く暖かかった吐息はすぐさま冷えて、ふりしきる雪の白さに紛れて消えた。  誰も歩いていなかった。  午前九時。本当なら通勤やら通学やら通園やらで賑わっているはずの道も、今日は静かだ。ただ、慌ただしく車だけが往来している。まだ雪が降っているうちに、道路が凍ってしまう前に用事を終わらせようというのだろう。どの車もライトを点けて、ワイパーで雪をかき分けて、積もろうとしている雪の邪魔をしていた。  出来る限り綺麗な雪を踏みたくて、公園に入った。遊ぶ子供も、それを見る保護者も、暇を持て余した老人も誰もいない。貸し切りの公園の隅、花壇の前でしゃがみ込む。  なんとなく、雪をかき分けてみた。小さな花は、凍えているように見えた。 「何してんすか?」
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